パリの環境問題

ところかわれば

森弘子

少し前のことですが、パリは1月下旬から数日間雨がふりつづき、セーヌ川が増水しました。昨年の外出制限の際、家から徒歩で1km圏内にあるセーヌ川にかかる歩行者専用の橋に運動のためによく行っていたのですが、その橋もたもとが浸水していました。

“河岸浸水、進入禁止”と書かれた看板とセーヌ川 向こうに見えるのが歩行者専用のレオポール・セダール・サンゴール橋 両岸の道路に渡る部分と橋の中央部が河岸に降りられる部分に枝分かれするタイプの橋だが、河岸にかかる部分の橋のたもとが完全に浸水してしまっている 通常時は河岸には運動をする人や散歩をする人でにぎわっている 写真は2月6日

実はセーヌ川の増水はパリの冬の風物詩で、毎年1月2月になると増水しています。その歴史は古く、約100年前の1910年には例年に比べても記録的に多く雨が降り、”1910年セーヌ川の大洪水”として現在でも引き合いに出されるほどのものでした。当時はセーヌ川河岸から1.5km距離のあるサン・ラザール駅も浸水し、その際には通常よりも8m水位が上がったという記録が残っています。この1910年のような大洪水も100年に一度の大洪水として、現代のパリでも起こる可能性があると言われています。ちなみに今回の増水は2月1日時点で4.12mだったそうです。

1910年の大洪水のようす 左岸のセーヌ通りで、セーヌ川から数十メートル内陸に入ったところと見られる 浸水は約一週間続き、建物の下水管が壊れ衛生環境が悪化したとの記録があった(出展Bibliothèque nationale de France)

実はセーヌ川は、通常時は逆にその流量の減少が問題となっています。気候変動の影響で、その流量は今世紀末までに約30%も減少する可能性があるとされています。一見矛盾しているようですが、気温の上昇に伴い、河川の流量が減少し、水位が低下、それに伴い土壌が乾燥し、蒸発量が増加することになります。冬季には、降雨の頻度が高くなり、降水量が多くなると、流出水による局所的な洪水が発生し、泥流が発生する可能性があります。

セーヌ川は水質汚染も問題となっています。発がん性物質のあるPCBで汚染されているとの説がありますが、流量の減少は、この汚染物質やその他の排出物の水中における濃度が高くなるため、水質汚染の増加にもつながります。

歴史ある美しい街並みが特徴のパリですが、実は他にも環境問題が山積み。特に大気汚染は緊急の課題として具体的な対策が政府主導で講じられています。そのうちの一つ、毎年恒例となったパリ全域で行われている” la Journée sans voiture” (ノーカーデー)はコロナ禍においても昨年9月27日に第6回が行われました。毎回日曜日で、時間は11時から18時。バス、緊急車両、タクシーを除く一般車両(二輪車や電気自動車なども含む)は通行が禁止され、違反者には135ユーロの罰金が課せられます。最高速度も30km/h(一部20km/h)まで。他にもパリ市内の駐車場の料金をその日は30〜40%安くし駐車を促進するなど”止める工夫”もなされています。

パリでは市民の間での環境問題に対する意識が高いように感じますが、それは毎年のセーヌ川の増水や大気汚染対策のノーカーデーなど、市民にも物理的に環境問題が見え体感しているからかもしれません。

パリにおける環境問題などがまとまっているパリ市のウェブサイト(フランス語)
https://www.paris.fr/environnement