「ていねいな暮らし」カタログ

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暮らし系雑誌における「暮らし」の描き方——ここまでのまとめ

この連載では、地域文化誌や『ku:nel』、『Lingkaran』、『天然生活』を中心に、21世紀に入ってからの「暮らし」の描かれ方を確認してきました。その他、『カメラ日和』で暮らし系雑誌の中核となる「ましかく写真」のことについて触れ、物の歴史から「本当」を読もうとする『d long life design』を軸に話を進めてきました。この後も、リトルプレスや移住にこだわった雑誌などを見ていきたいと考えているのですが、今回は閑話休題、これまで触れてきたことをまとめてみて、次からの話につなげたいと思います。

ていねいな暮らし雑誌

これから注目する「地域文化誌」の一部

まずは、レイアウトについて。暮らし系雑誌の特徴として、華美な装飾は排除され、何よりも余白が多いことが挙げられます。「住まいマガジン びお」も余白多めかつ明朝体が基調となっていますが、「暮らしのまんなか」(第13回)まで余計なものを削いでいくとシンプルなレイアウトとなるようです。そして、短い記事タイトルにも句読点がつけられるなど、「休符」の多さも今のライフスタイル誌でよく使われる手法です。

次に写真についてですが、写真は均一な正方形が用いられることが多いのが特徴です。今ですとInstagramとの関連も言えそうですが、今回取り上げた暮らし系雑誌創刊当時はまだSNSはなかったので、写真史的に語ることのできる流れと、正方形が備える「美しさ」(第9回)といった認知的な理由がここにあるようです。露光は多め、かつ背景をぼんやりとさせ、被写体・物に優劣をつけない姿勢も見られます。記事の内容を直接説明しない少しズレたものも扱われていました(第5回)。

最後に内容についてですが、4つの傾向があると考えています。一つは『ku:nel』に代表される日常の雰囲気を旅人のような目線と先に挙げた「レイアウト」で描き取ろうとするもの。もう一つは、『Lingkaran』のような体の内面にも内容を寄せていくもの。3つ目は、エコロジーやロハスといった環境思想との関連で暮らしを捉え直そうというもの。最後に、次回触れようと思いますが移住に関するもの。もちろんこれらが組み合わせられて雑誌が作られていくわけですが、一口に「暮らし」という時にどのような背景から述べようとしているかという点はとても重要です。地域文化誌もこの4つを中心とした傾向を持つように思われます。

このような暮らし系雑誌のレイアウト・写真・内容を念頭に置きつつ、これからご紹介する暮らし系雑誌がこれらの系譜にどのように沿い、またズレているのか、そういったことに気をつけながら次の暮らし系雑誌を見てみましょう!

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。広島経済大学メディアビジネス学部メディアビジネス学科准教授。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。