森里海から「あののぉ」

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たきや漁

浜名湖の夕焼け

昨年、浜松の友人に誘われて「たきや漁」と呼ばれる浜名湖の伝統漁を体験することができました。「たきや漁」とは、日が暮れたばかりの浜名湖で水中灯を舳先へさきに灯し、その光の中に浮かんでくるエビやカニ、魚をもりで突く浜名湖独特の原始的な漁です。120年ほど前に始まった漁法だそうで、広い浜名湖でもたきや漁業を営む漁師は湖東部の雄踏町ゆうとうちょう周辺に限られています。松明たいまつを燃やして光源としたことが「たきや」という名の由来だそうです。

浜名湖の美しい夕暮れ時にそれは始まりました。伝馬船一艘に船頭さん以外に4~5人が乗り込み漁場へ向かいます。漁場まではエンジンで夕焼けの浜名湖を進みます。漁場に着く頃にはすっかり日も落ちて夕闇に包まれはじめます。


ここからはエンジンを切って船頭さんの竿さばきで静かに船を進めます。水深は1メートルほどで、舳先の灯りで湖底までよく見えます。灯りを目指して集まってくる魚やカニを銛で突くのですが、これがなかなか難しい・・・。お手本を見せてくれる船頭さんは、鮮やかな手さばきでどんどん捕まえるのですがこっちはそうはいきません。それでも苦戦しながら、2時間ぐらいの漁でなんとか夜の食事分くらいの収穫をあげることができました。

たきや漁

浜名湖は汽水湖なので捕れる魚やカニは殆どが海の生き物たち。瀬戸内海の魚たちと良く似た種類です。そして、その後すぐに漁師さん達がいかだで獲物を料理して食べさせてくれます。


浜名湖に浮かぶ筏の上で獲れたての海の幸を味わえる至福のひとときです。こうして、浜名湖の夜は更けていったのでした。

伝馬船を竿で漕ぎ一匹一匹の獲物を銛で狙う・・・。実に原始的でのんびりした漁でありましたが、乱獲をしない、適度なバランスが守られる「たきや漁」は自然の摂理に則った、とても人間的な伝統漁法でありました。

浜名湖で獲れたカニ

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士