びおの珠玉記事
第41回
冬の土用
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年01月25日の過去記事より再掲載)
土用の丑の日の話をします。あれ?土用の丑って夏じゃなかった?
いえいえ、夏だけではありません。土用は年に4回巡ってきます。
五行説に基づいて季節を分けた時、木火土金水それぞれが、春(木)、夏(火)、土用(土)、秋(金)、冬(水)とされています。
土用は、夏と秋の間、というわけではなくて、季節の変わり目の十数日をさします。
土用は季節毎にありますから、年に4回やってきます。「丑の日」は、日付を十二支に当てはめたもので、12日に1回巡ってきます。それぞれの土用は概ね18日ぐらいですので、必ず1回以上は「土用の丑」にあたります。巡り合わせによっては、同じ土用に2回やってくることもあります。
夏の土用に鰻を食べる風習は、平賀源内による宣伝手法であったという説がしられています。
「本日土用の丑」という張り紙をして、「う」のつく食べ物を食べましょう、というまことしやかな宣伝に、当時の人々は乗せられてしまったのか、鰻はすっかり夏の食べ物になりました。
元来、鰻の旬は冬でした。夏に売れない鰻をなんとかして売ろう、という「しかけ」が、今も残り続けているようです。
旬はいつ?
他にも、人が人為的に「旬」を操作してしまった例があります。
本来、苺の旬は春、3月〜4月です。けれど、クリスマスケーキ需要で12月頃に併せて出荷されるようになり、あたかも冬が苺の旬であるかのようです。
家計調査によれば、鰻消費のうち1/4が7月、夏の土用に集中しています。苺の出荷も、11月まではほとんど動きがありませんが、12月から急に伸びてきます。
旬の話には、必ずと言っていいほど「旬の食べ物は栄養価が高い」という話がくっついてきます。
それもさることながら、大切なことは、季節感を持っていられるかどうか、ということだと思います。
一方で、一次産業従事者は減っています。戦後は産業人口の中で最も多かった一次産業従事者は、絶対数も1/6ほどに減少し、産業人口内の比率で言えば1/10ほどになっています。
作る人は減ったけど、食べる人は増えました。人口減少に転じたとはいえ、食べ物を食べる人が急速に減るわけではありません。
それでいて、みな腹いっぱい食べたい、国産のものが食べたい、農薬はいやだ、あれが食べたい、これが食べたい…という要求を満たそうとするのなら、昔ながらの食生活は成立しないのも道理です。
総務省の「家計調査(2012年当時)」によれば、世帯あたりの食料支出割合で、もっとも多いのは「加工食品」で、およそ3割を占めます。「外食(17.9%)」と「調理食品(11.9%)」をあわせれば、6割以上が「誰かが加工した食料」です。調理にかける時間も、年々減少傾向です。食べ物への関心が高くなっている、とはとても言えないように見えます。
食料消費の全体的傾向
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h24_h/trend/1/t1_1_2_1.html
選択肢の多い社会が豊かな社会、といわれています。
では、旬のものだろうが、そうでないものだろうが自由に選べるのが豊か、ということでしょうか。なんだか違うような気もします。
ともあれ、食べ物のことであれこれ言っていられるというのは、なんと平和なことでしょうか。
冬の土用と紅
そうそう、食べ物の話でない「旬」をひとつ。
冬の土用には、「寒紅」がよい、とされています。寒中に作った紅は、色鮮やかで美しく、冬の土用の丑に売られるものは「丑紅」の呼び名で尊ばれたそうです。
土産には京の寒紅 伊勢の箸 高浜虚子
紅づくりは冷気をよしとして、寒い中での作業でした。高級な京の寒紅は、「金一匁紅一匁」などといわれ、金と同じだけの価値があったとされています。
現代はともかくとして、江戸時代から近代までは、京の寒紅は女性の憧れでした。誰でも簡単に手に入るものではなかったはずです。
たいへんな手間と時間がかけられた逸品を楽しむのも、旬の楽しみ方の一つです。あなたの「寒紅」はどんなものですか?