びおの珠玉記事

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ソメイヨシノだけが桜ではない

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年03月31日の過去記事より再掲載)

桜ソメイヨシノ

ソメイヨシノ

あなたは吉野桜を見たことがありますか

同じ色で彩られ、パッと散って行くのが桜だと思っていませんか?
それはソメイヨシノであって、ソメイヨシノだけが桜ではありません。
けれども、今では日本の桜の70〜80%位がソメイヨシノによって占められていて、桜というとソメイヨシノを思い浮かべる人が多いと思います。

まず一番目にお伝えしたいのは、ソメイヨシノは明治以降の桜に過ぎないということです。
ソメイ(染井)は地名です。今の東京都豊島区駒込あたり。
ソメイヨシノは、大島桜(桜餅を包む葉に使われる)と江戸彼岸桜が天然交配して、突然変異で生まれたものを、染井村の墓地近くに住む植木屋さんが、「吉野から採ってきた」といって売り出したことに始まります。吉野桜は山桜であって、ソメイヨシノとは異なります。ヨシノと名乗ったのは、「吉野」ブランドを利用したからです。つまり、ネーミングで当たったのです。


ほんとうの吉野桜と、ソメイヨシノの最大の違いは、一方が実生からのものであるのに対して、ソメイヨシノはすべて接木、挿し木によるクローン(栄養繁殖)だという点です。つまり、クローンによって、どんどん複製できるのがソメイヨシノで、それが日本中に普及した理由です。
ソメイヨシノは、お城とか、川べりとかに植えられて、単一に一気に咲きます。花の色も、咲く時期もほとんど同じなので、ソメイヨシノの桜並木は鮮やかです。
桜前線といって開花日も予測できます。気象庁は、各地のソメイヨシノを対象にソメイヨシノの基準木三本を決めており、そのうち二本で花が開くと、「開花宣言」が出ます。このシステムは1953(昭和28)年に始まりました。
ソメイヨシノは、明るい花だし、華やかだけれど、薄っぺらで深みがありません。
自生する桜は、いっぺんには咲きません。一本の枝でも、満開の花の隣は、まだ蕾が堅かったりします。それは吉野の山桜を注意深くみると、よく分かります。
奈良県・吉野山の桜

奈良県・吉野の桜


ソメイヨシノは、あちらこちらに植えられましたが、ソメイヨシノには種がありませんので、子どもは生まれません。ずっと接いできましたので、深みのある桜にはなりません。ピークは百年といわれ、最近のものは50年といわれます。
櫻守さくらもり」で知られる佐野藤右衛門さんは、ソメイヨシノは「同じ衣裳をつけて、同じ髪型で、同じ喋り方をする桜や」といいます。ソメイヨシノは、いうならグローバリズムの桜。花見だけのソメイヨシノ。春だけ騒いで、放っておかれる桜です。
そんなソメイヨシノだけが桜だと思わないでください。はじめに書いたように、ソメイヨシノは明治以降の桜なのですから。

日本には、いろいろな桜が自生している。

古い漢字では、桜は櫻と書きます。「木」+音符「嬰」(貝の首飾り。とりまく)というわけで、木をとりまくように花の咲く木という意味がこめられています。
日本には、ヤマザクラ、オオヤマザクラをはじめ、カスミザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、エドヒガン、カンヒザクラ、チョウジザクラ、ミヤマザクラ、タカネザクラなど10種類ほどの桜が野生していて、いろいろ合わせると約100ほどの種類があります。そして、これらの野生種から多数の園芸品種が育成され、今では200〜300種類に達するといいます。

山梨県・武川の日本三大桜の一つ山高神代桜(エドヒガンザクラ)

山高神代桜(エドヒガン)


このうち、巨木になる桜はエドヒガンで、山梨県・武川の山高神代桜やまたかじんだいざくら、山形県・伊佐沢いさざわの久保桜、岐阜県・根尾谷ねおだに淡墨桜うすずみざくら、岩手県盛岡市の石割桜いしわりざくらなどが知られます。
長野県伊那市の高遠たかとお城址公園の桜は、彼岸桜ヒガンザクラです。
高遠城址公園のヒガンザクラ

高遠城址公園の彼岸桜


昔から日本人に親しまれてきた山桜ヤマザクラは、奈良の吉野山、京都の嵐山などが有名です。ソメイヨシノが出る前まで、明治以前の観桜は主としてヤマザクラでした。
ヤマザクラ

山桜


5〜6月に咲くのは、深山桜ミヤマザクラです。北海道から九州までの深山に生えます。
ミヤマザクラ

深山桜

櫻の一年

花が散ったあとから、桜は、次の年が始まります。
まず枝先に、根から吸い取った養分を運びます。それが桜の葉っぱです。
桜の葉
葉が落ち着くのが夏。葉の付け根に、来年用の小さな花芽が生まれます。それが10月頃に花弁などを形づくり、蕾として出来上がります。蕾を全部出したら、次は、桜の幹を太らせることに養分はまわります。つまり、夏から秋は桜の幹を太らせ、体力を充実させる季節です。
葉っぱは、夏の熱射から幹を守ります。秋が深まるにつれて、役目を終えた古い葉は、次代を担う芽の育成に太陽エネルギーが回るように、自らはらはらと葉を落とします。
そうなると、幹の方の成長も止まって、形をぐっと整えようとすると藤右衛門さんはいいます。そこで手入れをして、余分な枝を抜いたりして、手助けするのが自分たち櫻守の仕事だと藤右衛門さんはいいます。
「桜が倒れんで、何故そこにあるかを考えてほしい」と藤右衛門さんはいいます。いい土地を選んで、桜は寿命を伸ばしていることが分かる、と。
鳥が種を運んだりして自生する桜は生まれます。だから、山桜が自生しているのは小鳥が飛んでいる高さまでです。それ以上の高地は猛禽類もうきんるいがいるので、小鳥は食べられてしまうといいます。
奈良県・吉野の桜

参考資料
『桜が創った『日本』――ソメイヨシノ起源への旅』佐藤俊樹 岩波新書
『櫻よ』佐野藤右衛門 集英社刊
『桜のいのち 庭のこころ』佐野藤右衛門 草思社刊
『櫻史』山田孝雄 講談社刊
神代桜写真:from wikipedia

※1:タカ、ハヤブサ、フクロウなど鋭い爪とクチバシを持ち、他の動物を捕食する習性のある鳥類の総称