ちいきのたより
Vol.54 今も生きる、薩摩隼人の魂
鹿児島県鹿児島市 シンケン
鹿児島について、どんなイメージをお持ちですか?
・温暖な気候、豊かな自然、独自の食文化…
・気温も 人も 情も、熱い!
・幕末、維新の志士を多く輩出
何となく武士魂を持つ人が多い、そんなイメージも耳にしますが。
・・・調べてみると、なんと江戸時代〝他藩の約5倍〟もの武士がいたそう!
ほとんどは半農半士だったようですが、熱い人が多いというのは間違いなさそうです。(笑)
そのため、広い領土内に武士を分散させつつ護りを固めるために、薩摩藩は藩内を113に分けて外城を築き、その周りに武士が居住する「麓」と呼ばれる武家屋敷群をつくりました。
時は今から260年程前、江戸中期のこと。
外城と「麓」は名前の通り山のふもとの、容易に敵が攻め入りにくい裏山を抱えた川辺につくられました。
今でも鹿児島には「麓」という地名が多く残っており、なかでも建物が現存する9 つの麓地区は〝薩摩の武士が生きた町〟として、令和元年 「日本遺産」に認定されました!
そのうちのひとつ、南九州市知覧町にある知覧・武家屋敷群「麓」の、武士ならではの町づくりと住まいをご案内します。
1. 有事にそなえた「防御の町づくり」
〈 見通しのきかない路地 〉
麓は、ゆるやかなカーブや急なクランクなど、見通しがきかない道ばかり!
さらに石垣の上にはイヌマキが植えられ、住居が見えにくい造りになっています。
〈 鋭利な鉄柵にも負けない? 生垣 〉
石垣の上に必ず植えられたイヌマキの木。
中をのぞいてみると・・・
蜘蛛の巣のように広がる小枝たち!!
さらに仕立て次第で、1mほどの厚みを持たせることができます。
生垣を越えようものなら、アリ地獄に足を捕らわれるようなものかもしれません(汗)!
〈 敵を惑わす、屏風岩 〉
すべての屋敷は、門の内側に屏風岩と呼ばれる塀が立っており、屋敷のようすが見えない造りになっています。
屏風岩は、屋敷をまもる「盾」になっています。互い違いで2重に屏風岩を立てた、さらに堅牢な屋敷まであります。
(沖縄のヒンプンが、琉球貿易の拠点だった知覧へと伝わったようです)
他にも、防御のしつらえが至るところに施されています。
太平の世にありながら、地形に道、配置や家も、イザ! という時にそなえて徹底して考えられた麓の町。ここでは薩摩の武士の生き様を垣間見ることができます。
2. 男玄関、女玄関
当時の屋敷を復元した「高城邸」では、武士の暮らしをのぞくことができます。
鹿児島の昔の民家は、居住用と台所用の建物が離れて建つ「分棟民家」が多かったようです。
その後、江戸中期には生活の不便さを解消するために建物がつながっていきます。
しかし暮らしについては分棟の名残を受け継いだままで、驚いたことに1つの建物に2つの玄関がありました。
〈 役割が異なる、2つの入口 〉
正面の間口の広い入口が、「男玄関」。
正面の植木の右側の狭い入口が、「女玄関」。
江戸時代のことと言えども、何だか複雑な気持ちにかられてしまいます。
家主や客人は、男玄関を入って居住スペースのある「オモテ」へ。
女性や子どもは、女玄関を入って台所や土間のある「ナカエ」へ。
ここでは、家庭の中でも役割や身分の差が明快であったことが伺え、それが住まいにも現れています。
オモテは、縁側や庭につながる広々とした気持ちのいい場所にあります。
ナカエは、敷居が一段下がっていて、窓も少ない作業場という印象です。
〝敷居が高い〟という言葉は、ここから生まれたのではないだろうか…そんなことを想像してしまいます。
井戸の水を汲み、火をおこすところから一日が始まった往時の女性の毎日を考えると、薩摩の武士の活躍は裏方として支えた女性の力が大きかったのだろう、そんな風にも思えてきます。
〈ちょっと一息〉
「いつもは風が通って気持ちがいいんだけど、今日は蒸し暑いね〜」と麓の方が話していた通り、外気は湿気を含んだ30℃。麓の茶屋にて、名産の知覧茶とあくまき(灰汁巻き)で一息。
あくまきは、薩摩の武士の兵糧として生まれました。私の好物です^^!
3. 「借景庭園」、母なる山を望む
最後に、お庭をご案内。
薩摩の小京都とも呼ばれる知覧武家屋敷群はどの屋敷も庭園を備え、そのうち7庭園は名勝として国の文化財に指定されています。
特に印象的なのが、麓を見守るようにそびえる「母ヶ岳」を借景にした枯山水の庭です。
知覧の人々に愛されてきた山なのでしょう。名勝のうち3庭園は、母ヶ岳を取り入れた借景庭園です。
梅雨の晴れ間をみつけて旅した、知覧の麓。
残念ながら霞がかっており母ヶ岳はうっすら・・・
一方、雨で潤ったしっとりとした木々たちは、目に鮮やかに映りました。
石垣に囲まれた麓を歩くと、江戸時代にタイムスリップしたような気分になりますが、 驚くことに家々は子々孫々へと受け継がれ、石垣の向こうではふだんの暮らしが営まれています。
通りから眺めるのはいいけれど・・・という感じで、屏風岩の前には「私有地につき立ち入りをご遠慮ください」と、遠慮がちに書かれています。
解放されている7庭園も、住まわれている家がほとんど。
さらに住民の方が主だって組合をつくり、管理・清掃を行いながら景観を守ってくださっているそう。
通りも、庭も、家も手入れが行き届いており、ご先祖への愛と誇りが感じられます。
薩摩の武士が徹頭徹尾の知恵と工夫でまもってきたものは、町であり、暮らしであり、家族への熱い思いなのでしょう。
260年の時を経た今も、その風景は変わることなく、武士の誇りと魂がここには生きています。
*薩摩隼人とは…薩摩の武士のこと
ちいきの記者
森畑恵美子 もりはた・えみこ
鹿児島県枕崎市生まれ。
家のことが好き。家づくりが好き!
暮らしのなかの小さな気づきや発見が楽しみであり、ずっと大切にしたいことです。
(株)シンケン
鹿児島市下荒田4-49-22
TEL:099-286-0088
www.sinkenstyle.co.jp
「ふだんを、いちばんの幸福に。」
をコンセプトに、太陽・風・樹々などの自然をいかした住まいづくりを
鹿児島・福岡で、一棟一棟ていねいに取り組んでいます。
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