自然農のにんじん畑

家庭だからできる自然農

皆さんは「自然農」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。農薬や肥料がないと作物は育たないと思っている方も少なくないかもしれません。しかし、作物は自然の力だけで十分に育ち、むしろ、そのほうが栄養のある美味しい作物を育てることができます。そして何より、自然のサイクルを活かした栽培方法は、持続可能な農業のあり方といえます。この連載では、自然農と家庭でできる農業について考えてみたいと思います。

Vol.2  自然の力を活かす農業―自然農

家庭菜園で安全な野菜を育てる

前回のお話で自然農と慣行農法について解説しましたが、手間のかかる自然農に対し、大量生産のためには慣行農法もやむを得ないということも一定に理解できました。しかし、自分たちが口にする分の野菜を育てる家庭菜園ではそもそも大量生産する必要はなく、少量故に手間をかけることも可能です。手間と言っても必ずしも付きっ切りである必要はないため、テレワークの合間に水やりや草むしりができれば十分です。浜松市で自然農園を営む藤松泰通さんに自然農と家庭菜園の親和性についてあらためて伺いました。

「家庭菜園を自然農でおこなうメリットは主に3つあると思っています。一つ目は安全な作物が食べられるということです。プロの農家さんも自家消費分は農薬を使わないで作っていたりします。このことが如実に農薬を使った作物の安全性の低さを物語っていますよね。」流通する分の作物は人目を忍んで朝早くに農薬を撒いていたりして、農家さん自身も安全性に問題があることを一定に承知しており、農薬を撒くことに多少なりとも罪悪感を抱いているのではないかと語ります。ネオニコチノイドの環境や人体に与える悪影響など、世界中で農薬の使用が問題視され規制が進みつつある中、日本だけが農薬使用の規制を緩和していて世界の趨勢(すうせい)に逆行しています。何より問題なのはそのことがメディアやニュースがあまり取り上げないことです。

二十日大根の畝。作物のまわりはマルチングが施され、畝の間には雑草が生えている。

自然農だからこそ固定種で

家庭菜園もあくまでもマーケットとして捉えられているに過ぎず、慣行農法と同じ種が用いられ、雑草駆除や生育がいいことを謳った農薬や化学肥料を何の疑問もなく使用している人がほとんどです。「慣行農法で用いられる種はF1種といって、大量生産するために開発された種です。その一世代に限って安定して一定の収量が得られる品種で、発芽時期や生育期間、収穫が一斉におこなえ、形や見た目も揃っているのが特徴です。一方、自然農で用いる種は固定種(在来種ともいう)で、代々受け継がれてきた遺伝的多様性を有した種です。同じ作物でも生育や形状にバラツキがあり、収穫時期も一斉というわけにはいきません。」しかし、だからこそ旬の野菜を長く楽しむことができるといいます。

「形質が均一化されたF1種は病気に強いというのがメリットの一つですが、逆にいうと環境適応性に乏しいため、一つ間違えば全滅してしまう危険性もあるわけです。反対に固定種は多様性があり、個性があることが強みとなり、全滅を免れることができます。しかも代々種が採れますから、年々土や環境に適した種になっていきます。その土地の土壌、お庭にいる虫や陽当たり、雨の量、風の当たり方は家庭によってまちまちです。そして、そんな環境から育った美味しいと感じた野菜の種から、次の年は野菜を育てることができます。」藤松さんはこれこそ“家庭の味”なのではないかと語ります。「自家採種ならたくさん種を蒔けますから、間引きながら家庭の味を長く楽しめることになります。むしろ一斉に収穫しなきゃいけないのでは食べきれないし、困ってしまいますよね。」

大根の畑

ダイコン。同じアブラナ科の野菜でもキャベツなど結球する野菜に比べ、根菜は比較的初心者でも育てやすい。

野菜を育てる“楽しみ”がある

“作物を育てる楽しみがある”これが二つ目のメリットです。「来年はもっと美味しい野菜が採れるかもしれないと思ったらモチベーションは上がりますよね。前回お話ししましたが、私が実家に戻って農業をはじめたときは両親も半信半疑でした。農薬や肥料を使わないで農業ができるなんて普通は思わないですよね。」しかし、ギクシャクした関係も泰通さんが言ったとおり、きちんと作物が育つことがわかると家族間のコミュニケーションも自然に良好になっていったそうです。「もっと美味しいものができる、そんな手応えを感じればもうこっちのものです。今では能動的に農作業を手伝ってくれます。この楽しみは家庭菜園でも同じだと思います。F1種ではこうはいきません。」

とくに小さなお子さんがいるご家庭では、自然農が自然との関わりの象徴的な場面になるのではないでしょうか。小さいころから土と親しみ、身体で自然を感じることは“学び”そのものです。「自然は待ってくれません。“秋の一日は春の二週間”と呼ばれるほどタイミングが大切だったりします。はじめから上手くいくわけがなく、いくつも失敗を重ねて上手くなっていきます。」誰がやっても上手くいくようにつくられた“慣行農法+F1種”のようにはいきません。失敗するから成功した時の喜びも大きく、こうした体験の積み重ねが本当の学びとなり、自己肯定感へとつながっていくように思います。そして、親にとっても自然農は子育てと似ているのではと藤松さんは語ります。

ハクサイも冬野菜の定番。

間引くこと、命をいただくこと

「上手く言えませんが、家族になっていく感覚に近いですね。収穫した野菜から種を採って次の年に植えることは、過去から未来への“つながり”を感じるんです。発芽率が高く美味しい種はまさに自然に選ばれし種です。」この土地に合っている、つながるべくして出会えた種から間引きながら大切に野菜を育てていくと、出荷する際は本当に子どもを嫁がせる親の心境になるそうです。そして、自然とのつながりに感謝し、虫を含めすべての生き物とのつながりを身体で覚え、命をいただくことを学びます。

実際に藤松さんは地域の子どもたちに自然農を教えています。「子どもたちはかわいそうで間引けないんです。でも間引く必要があり、間引いた野菜もしっかりといただきます。」教科書やマニュアルでは教えられない、生きるための土台が自然農から育まれます。「子育てにもってこいで、おまけに野菜を買わなくて済むんですから食費が浮きます。」これが3つ目のメリットだと仰いました。次回は、例えば家庭菜園初心者の4人家族が自然農をおこなう場合、どれくらいの広さでどんな野菜を育てることができるかなど、季節やスケジュール、コンパニオンプランツ(互いによい影響が期待できる野菜の組み合わせ)等の話も含め、より実践的で技術的なお話を伺うことにします。

にんじん畑

ニンジン。たくさん種を蒔けるのが固定種の良さ。間引いたニンジンもしっかりと食べます。