かぼちゃの花とバッタ

家庭だからできる自然農

皆さんは「自然農」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。農薬や肥料がないと作物は育たないと思っている方も少なくないかもしれません。しかし、作物は自然の力だけで十分に育ち、むしろ、そのほうが栄養のある美味しい作物を育てることができます。そして何より、自然のサイクルを活かした栽培方法は、持続可能な農業のあり方といえます。この連載では、自然農と家庭でできる農業について考えてみたいと思います。

Vol.8  自然の力を活かす農業―自然農

概ね月一回のペースで連載してきた「自然農」のお話も、いよいよ今回が最後となります。最終回は、この連載のまとめとして、「家庭菜園に向いた作物」や「大まかな年間のスケジュール」について、お話を伺いました。

多品種・少量生産で、長く収穫を愉しむ

「世帯数や規模にもよりますが、家庭菜園ということであれば、“多品種・少量生産”を基本に考えればいいと思います。輪作することで連作障害も生じにくいですし、何よりいろいろ育てたほうが愉しいですから。」

家庭菜園を私たちが愉しみながら行うための基本を、藤松自然農園の藤松泰通さんは、こう話されます。

例えば、春からスタートするならば、夏野菜の準備となります。始めやすい作物は、〈 ナス、ピーマン、シシトウ、カボチャ、キュウリ、ミニトマト、ゴーヤ、ラッカセイ、エダマメ、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ 〉など。いずれも5月頃に定植し、7月の後半頃から収穫できるようになり、8月下旬から9月前半頃まで楽しめるといいます。

「ナスなんかは最初の一果を早く摘まないと木が大きくならなかったりします。はじめの頃は、実が小さなうちに早め早めに摘んでいくことで木が大きくなり、収穫期間も長くすることができます。」実を大きくしようとすると、植物そのものが生殖生長に入ってしまい、自分自身を大きくしようとしなくなってしまうそうです。「簡単に言うと、子どもができたからもういいやっ、という感じになるのです。」逆に、こまめに摘果すると自分自身を大きくするほうに栄養が回り、結果的に長く収穫できるようになるわけです。そのことを栄養生長というそうです。

「家に隣接する家庭菜園であれば、こまめにお世話でき、摘んだものももちろん食べられます。栄養生長を促し、長く収穫できることは、家庭菜園の醍醐味と言えるのではないでしょうか。」

ラッカセイやエダマメは、コンパニオンプランツとして常に組み合わせておき、サツマイモやサトイモ、ジャガイモも意外と手は掛からないといいます。「逆に、ナスやピーマン、大玉トマトのほうが手間が掛かると思います。果菜類はもともと地力が必要ですし、水の管理も欠かせません。」とくにナスは、必要に応じて米(ぬか)や堆肥を投入する必要があったり、大玉トマトは虫も付きやすいので難しいそうです。

「その点、実が小ぶりなミニトマトやシシトウは比較的手が掛かりません。イモ類は結構丈夫ですし、虫にも強いのでチャレンジしてみることをお勧めします。」いずれにしろ、手間暇掛けられるのが家庭菜園のよさなので、“多品種少量生産”で、長く収穫を楽しめる夏野菜のプランを、ぜひ、考えてみてください。

藤松農園でも夏野菜が進行中。写真左上から時計回りに、ミニトマト、ナス、カボチャ、シシトウの様子。(7月下旬撮影)

冬野菜(秋)からはじめるのが、おススメ

夏野菜の収穫が終わりに近づいたら、今度は冬野菜の準備ということになります。とはいえ、そのタイミングはその年の天候や作物の状態で変わり、いつも同じ日にちで一斉というわけでもありません。

「シシトウやピーマン、ナスやキュウリなどは、10月くらいまで採れたりします。でも、多くは9月に入ったら冬野菜の準備に入ります。〈 ハクサイ、キャベツ、レタス、ニンジン、ダイコン、カブ、チンゲンサイ、ネギ、シュンギク、タマネギ、ニンニク 〉などです。」

葉菜類は苗を植えるので、まずは苗づくりから。夏の苗づくりは、暑さ残る中になるため、簾などで日除けして育苗したり、まだ虫もいる時期なので、防虫ネットを被せるなど、虫がつかないようにするのも、そのポイントになります。一方、根菜類やチンゲンサイ、ネギなどは直蒔きするそうで、いずれにせよ9月半ば頃から定植し、11月の半ばから収穫できるようになります。

「夏野菜に比べ、水の管理も楽で、雑草も虫も少なくなる時期なので、冬野菜から始める方が初心者の方にはハードルが低いかもしれません。ただ、ハクサイやキャベツなどの結球する野菜は、夏のナスやピーマンと同じように地力が必要になるので、無施肥だと収穫は春になってしまうかもしれません。」もちろん、米糠や堆肥などを投入することで収穫時期を早くすることは可能です。同じ葉物でも、サニーレタスなんかは早く収穫できるそうです。

「自分の場合はとにかく無農薬、無施肥をきっちり守ってやっているので時間は掛かりますが、そのあたりはどこまでこだわるかで収穫のタイミング、収量は変わってきます。」タイミングや収量は品種によっても異なるそうで、早生のものを選べば早く、晩生のものを選べば収穫時期は遅くなります。藤松さんは、無農薬、無施肥にこだわっているので晩生の品種を選んでいるそうです。

「じっくり大きく育てたいのでそうしていますが、時短を求めるのならやりようはいくらでもあるので、自分らしい栽培方法を試してみてください。」収穫時期を長くしたいのであれば、早生の品種で時期をずらしながら栽培するとよいそうです。スーパーへ行くと、今でもダイコンが並んでいたりします。「夏ダイコンの時期ですが、自然農だとやっぱり夏は美味しくないんですね。自然農は野菜本来の時期、つまり“旬”であることが最も大切です。タマネギやニンニクなんかは、翌年の春、5月6月頃の収穫になります。」ニンジンやダイコン、カブやチンゲンサイなどは、発芽して以降は、間引きながら冬の間中食べられるので、家庭菜園にはもってこいの野菜といえます。

自然農の畑

自然農のなす畑
上がシシトウやピーマンの畝、下はナスの畝
家庭菜園+自然農で、自然とともに生きていく

家庭菜園の良さは、何といっても目が行き届くことです。いくつも畑があり、農家として田んぼもやっている藤松さんは、“自然を生かす自然農こそ、家庭菜園に向いている”と強調します。

「畑と一緒に田んぼもやっていると、田植えしてからしばらくは田んぼに付きっ切りになってしまう時期があります。畑の作物の生長する時期とも重なり、田んぼの忙しさにかまけて畑のほうを疎かにしてしまうと、生長のタイミングを逸してしまうのです。」気付いたら草ボウボウになっていて、作物が草の勢いに負けてしまうことがあるそうです。「大きくなろうというときに光合成ができないのですから当然ですよね。」一気に草が伸びて、少しでもその状態が続くと、光合成ができないばかりか、虫がついたり、病気になるリスクも増します。少しのタイミングの差が結果に大きく影響してしまいます。

自然や環境の変化に即座に対応できるのは、家庭菜園だからこそなのです。

「朝、目が覚めてちょっと畑を見てくる。目立つ草を抜いておく。乾燥気味だったら水やりしておく。少しの時間でも毎日欠かさず様子を見ることができる、そういうちょっとした手間こそ大切なんです。」おまけに、間引いた野菜を持って帰ってそのまま朝食にすることができるわけで、まさに自然とともに生きていることを実感できる毎日といえるでしょう。

そして、11月に入ると藤松さんは、エンドウマメやスナックエンドウを畑に投入します。「これらは冬の間のマメ科なので、冬のコンパニオンプランツとして用います。」大きくなりすぎると寒さにやられてしまうので、11月の後半頃から投入するそうです。もちろん、マメも収穫して食べます。そして、連作障害が起こらないように、輪作することも自然農では欠かせません。

「夏にナス科の作物を栽培したら、冬はアブラナ科の野菜を育てるといいです。」ハクサイやキャベツなど結球する野菜はとくに地力が必要なので、夏に地力の必要だったナスのあとに植えると上手くいくそうです。同じように、ウリ科のあとは根菜類がいいようです。「こうした組み合わせも、自分で発見するとなお楽しくなると思います。」

そして、収穫を終えたら“種採り”を忘れてはなりません。「圃場(ほじょう)(自分の菜園)に合った種にしていくのも自然農で畑をやる醍醐味です。」たくさん種を残しておけば、たくさん植えて、たくさん間引いていくことができます。「虫がついていなくて、見た目がよく、食べても美味しい。そんな野菜があったら食べ切ってしまわないで、ぜひ種を採っておいてください。」

種は、買うものではなく、受け継いでいくものなのです。最初は購入するしかないかもしれませんが、在来種の種を購入し、代々種を採っていく。ぜひ、その土地だからこそできた、野菜の美味しさを味わってください。

左がエンサイ(空心菜)、右がラッキョウ。作物そのものの生きる力を引き出す「自然農」の考え方は、近代社会が失った“何か”を気付かせてくれる。

今回でこの連載は最終回ですが、家庭菜園で自然農を楽しむための注意点などを「まとめ」として次回ご紹介します。