びおの珠玉記事

77

森里海から・アユモドキ

アユモドキの成魚

アユモドキの成魚

アユモドキという魚をご存じでしょうか?
名前から受ける印象はアユのまがいものと言ったイメージかもしれませんが、なんとれっきとした国指定の天然記念物の淡水魚なのです。
容姿はアユに似ているとは思えないのですが、その泳ぎ方がアユに似ているところからその名がついたようです。
日本の魚で天然記念物は十数種類(淡水魚としては4種類のみ)しかいませんので、とても希少な淡水魚と言えます。

それもそのはず、現在アユモドキは京都府亀岡市の桂川水系、岡山県の旭川・吉井川水系の3カ所にしか生息していないのです。
生息域が極端に少なくなってしまったのには理由があります。
アユモドキは普段、用水路の石垣の隙間などに住み着いているのですが、夏期に用水路の水が上がってきて水田に水が入るほんの数日を狙って用水路から水田へと遡上(?)してきます。
そして水につかった畦の雑草に卵を産むのです。

アユモドキ観察会

アユモドキの産卵環境。水に浸かった草むらに産卵する。
(アユモドキ観察会での様子)

アユモドキの稚魚

アユモドキの稚魚(生後3週間程)。すでに5cm程度に生長している。


卵はなんと24時間で孵化し、2~3週間もすれば3~5cmぐらいの体長に生長します。
そして1ヶ月以内に用水路へと戻っていきます。
つまり産卵期に用水路から水田に水が流れ込み、1ヶ月程度水に浸かった草原が確保されないとアユモドキは子孫を残すことができません。
用水路はそもそも人が作った人工的な川、そして田んぼに水を引き込むのも人の営みによるものです。
そういう意味でアユモドキは、長い年月まさに人と共生してきた生き物ということができます。
大きな水路

この様な住宅地を流れる用水路にアユモドキは生息する。

古い石垣の隙間

古い石垣の隙間がアユモドキの絶好の住処となる。


地球上には原生林のような手つかずの自然もあれば、用水路のような身近な自然もあります。
そしてそこで育まれる生物多様性。
ここでは人間がつくった石垣がアユモドキの絶好の住処となり、稲作という人の営みがアユモドキの産卵場所を提供しています。
このように、もともと人と自然との共生は決して特別なものではなかったのです。
人の生活に身近なところで生物多様性を育む環境を維持すること、それがとても大切だとアユモドキは教えてくれるのです・・・。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/
アユモドキ(成魚)写真
ソースhttp://opencage.info/pics/large_14398.asp
(c) OpenCage
Creative Commons 帰属 – 同一条件許諾 2.5

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年12月02日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。