よいまち、よいいえ

12

長野県小布施町

長野県小布施町

まちを共に楽しむ

倉庫的な蔵を改造したゲストハウスのドア外のベンチから描いた。
どこにでもありそうな風景だが、
色々な木々もあり、通り抜けできる場だから、
出会いもあり、昨晩はここで飲み交わし、思い出の場になった。

左から右へ、脇の道から正面の道へ、途中は、前庭、駐車場、庭先、
そして、建物の間を抜ける渡り廊下、
中庭、小布施ガイドセンターへとつながる。

少なくなったが、かつてのまちには、よその家の前を
挨拶しながら通り抜けられるところがそこかしこにあった。
小布施は、そうしたつながりの場を復活とともに作りこんでいる。

まちと国際教育

爽やかな空と風を楽しむ季節に入ったが、今年の夏にはどんな思い出があっただろうか。猛暑の中での高校生諸君と国際性を養う体験を思い出す。それは、長野県内の高校生に県の教育委員会が募集して行った体験で、初対面どうしの高校生が、地域の良さを探し、小グループ別に、海外に発信するプレゼンテーションをまとめる2泊3日の体験学習の合宿だ。
今年は栗で有名な小布施で、アドバイザーとして加わった。最終日には、各グループの発表と質疑応答、そして全体討議や意見交換で締める。
発表は、質疑応答も英語に挑んだグループが多かったが、日本語でもOK。自ら見聞きし、感じ、発見したことを話し合い、グループ間で役割を果たしながら練り上げ、自らの独自の内容があるかが大事だ。「世界に発信‘Obuse’の魅力 高校生の視点で小布施町の魅力を発見し、同世代の若者に伝えよう!」の大テーマと町づくりのサブテーマも提示された。

「共育・響育」の出発

初日、最初の話、合宿の「目的と意義」を伝えねばならない。その気になってもらえるかが問われる。まずは、「教えない教育」で成果をあげているオランダの例をあげ、自ら考え発起しグルーブで討論する紹介から始めた。日本の教えようとする「教育」は、偏差値など比較評価の「競育」、ともすると考えや学びを強制する「強育」になりがちと語った。
一方、国際化する社会では、それぞれの背景や言語も違う人々と共の場では「共育」の方向、理解に努力し気持ちを通い合わせる「響育」のセンス、そして違った小さな力を組み上げる「協育」も必要と話した。心は、受け身の「教わる」ではなく、互いに現場を自ら見聞きして考え、疑問や評価について語り合い、自らの言葉で表現しあう重要性を、伝えることにあった。
朝早く遠くからか眠そうな顔の高校生もおり、そこで次は、トランペットで「この素晴らしき世界」の曲の途中までを演奏、半ばから、「身近なところで自ら見出せる素晴らしさ」を伝える意味深い歌詞を英語で歌った。途中から彼らが手拍子で合奏してくれて、音が響き「共育」「饗育」の気配が生まれた。

「まち」の字から、楽しむ

なぜ「まち」かについて、字を書いた。まちは、町や街と書くが、町は田に丁で、道を上から見て数えるような行政的な感じもある。街は行の間に土が重なり、行き交う人や建物の連なりも感じさせる物的なことを含む。ものものしい現代では、芸術分野も、作品自体よりは対話性や異種の関係やつながりが求められる時代と説き、それぞれをつなぐ間の大事さを強調した。間の一つ、空間は車や建て詰まり等で損なわれ、二つ目の間、時間は忙しく、三つ目の仲間も失いがちな間のない、間抜けな時代。
それに対して、まちは、忘れられがちな様々な間や関係を知る場のひとつとして、間知(マチ)と書いた。「三間(空間、時間、仲間)なし」の時代と言われて久しいが、それは自らの目や体験で探し、ともにわかちあうことで回復し、豊かさが広がる。間知(マチ)でその体験を楽しんで欲しいと伝えた。

間知(マチ)と「逆境を楽しむ」知恵

数人の小グループに分かれて、午前は気ままに歩き、午後は、それぞれの選んだテーマにしたがって、再度見聞きに向かい、夜はその報告。グループはそれぞれ見聞きしたマチの知恵や実況を報告し合い共に学んだ。
一つには、酸性度の高い川が流れる地域のため作物が育たない土地で江戸時代に栗を植えて、栗の名産地とした工夫から始まり、最盛期には北斎や文人たちとの交流と蓄積もできた歴史、一方、衰退時期、水上交通の拠点の役目が終わって辿った時代から、約40年前に始まった再生の取り組みから波及した様々な積み上げの歴史がある。上からみた「町づくり」ではなく、それぞれが自らの逆境を恵みに変え、よろこんでもらうことを楽しみとする、さまざまな知恵と積み上げが、結果的にまちづくりにつながったことも知った。
衰退した市街地の駐車場だらけの場を、歓ばれる開かれた庭のようにする工夫や、造り酒屋さんが不利な条件や制度の中で、ワイナリー・ブランドへと育てる心意気、そして、急斜面地を屈指の新たなスポーツの訓練や大会の場にした遊び心と奇想天外な試みも知った。小生も共に間知を楽しみ、学び、感謝。海外発信のプレゼンも充実終了し、最後の話は、次を待つ「待ち」の話をし、「聖者の行進」を全員で歌って再来を願った。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2015年09月08日の過去記事より再掲載)

著者について

小澤尚

小澤尚おざわ・ひさし
国内や外国の現地でのスケッチとともに、昔の姿の想像図や、将来への構想や設計の図も、ハガキに描き続け、ハガキをたよりに、素晴らしい間の広がりを望んで活動。2004年から土日昼は、日本橋たもとの花の広場で、展示・ライブ活動を行ってきた。 東京藝大建築科卒、同大学院修了。(株)環境設計研究所主任を経て独立し、(株)小沢設計計画室を設立し、広場や街並み整備も手掛けた。宮城大学事業構想学部教授(1997~2013)を経て、設立した事務所のギャラリー・サロン(ギャラリーF)を日本橋室町に開設・運営。2021年逝去。

連載について

建築家・小澤尚さんによる連載「よいまち、よいいえ」。 「いえ」が連なると、「まち」になります。けれど、ただ家が並べばよい、というのものではありません。 まちが持つ連続性とは、空間だけでなく、時間のつながりでもあります。 絵と文を通じて、この関係を解いていきます。