びおの珠玉記事

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むずかしい事情・虫と農薬

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2008年09月25日の過去記事より再掲載)

虫

イラスト:小野寺光子

この夏、農薬を使わないで庭木の「害虫」を駆除できたか?

桜や椿やもみじ、柿の木やバラ、みんな好きな木だけれど、毛虫がウジャウジャと発生したら、どうします?


イラガの食害にあったモッコク。幼虫は葉の裏から顔を出しています。葉っぱの上に見えるのは糞です。

葉の裏側にイラガの幼虫がたくさん。実際に刺されました(痛)

これらの木につくイラガの幼虫に刺されると、電気が走ったみたいな激しい痛みに襲われます。そんなわけで、この毛虫は別名電気虫と言われています。全身の棘の先から毒液を一斉に分泌するためです。体を光にあてると、針の先から液体が分泌されていて、ゾッとします。チャドクガと並んで日本の二大毒毛虫です。

チャドクガも難敵です。農薬を散布すると、葉っぱからぼたぼたと落ちてくるといいます。糸を吐きながら降りてくるものもたくさんいるといいます。死骸も要注意で、毒針と毒が残っていて、それにやられたりもします。

ニレハムシも始末が悪く、この緑色のイモムシ(幼虫)、甲虫(成虫)は、ニレやケヤキの葉を食べます。地面は葉っぱ色の糞で覆われ、木を丸坊主にします。

この夏、こんな虫たちに向かい合い、農薬を使わないで虫と闘った人たちがたくさんいます。今回は、そんな人たちの悪戦苦闘のブログを、あとでご紹介します。

こんな事情、あなたは抱えていませんか?

まず、「害虫」をめぐる最近事情について述べておきます。

お隣さんが農薬を使って「害虫」を駆除している場合、それを「やめて!」とはなかなか言えません。お隣さんはお隣さんで、何も手入れしないので虫がウジャウジャいるのであって、それがこっちにやってくる、被害者だと思っているのかも知れません。

張り切りじいさん(正義感がつよくて、普段はいい人)が町内の組長を務めていて、みんなで一緒に農薬散布して「害虫」を駆除したいと言い出しました。お隣さんは大賛成です。こちらは大反対です。

先にあげた「害虫」に襲われると、たいがいの人は「害虫」に憎しみを持ちます。

刺された、やれ湿疹が出来た、やれ身体が痒いというだけでなく、家中が「害虫」に支配されたような気分に襲われて、その退治に血道をあげるようになります。自分を刺した蚊を追う目は、誰もが殺人鬼の目になるといわれます。

俳優学校の殺人鬼を演じるレッスンは、イメージの中で蚊を追って、見事やっつけるまでを身体行動させます。やっつけて、その手に自分を吸った血をみて、ニヤリとするところまでを演じさせます。人を殺す行為は、いうならそれと似た感情であって、このように似た感情を自分のなかに発見するのが俳優修行というわけです。これは実際に、俳優座の演出家千田是也さんがなさっていたレッスンです。

誰でも買える農薬が
あの「メタミドホス」になる?

「害虫」憎しの人にとって、農薬ほど強い味方はありません。効果が高いものほど頼もしくなります。農薬散布している家でも、中国食材の農薬汚染にはピリピリしています。

汚染米などは、今や日本中がピリピリしています。それなのに、自分が噴霧している農薬は、マスクをしたりして少しは気にしているけれど、「害虫」憎しで、「使用量の注意」を超えて撒き散らしています。大体「使用量の注意」など守られないものだけれど……。

とある相談系サイトに、こんなやり取りがありました。


農薬のオルトランについて教えてください。
オルトランをお隣の方がカナリ使用しているみたいなのです。
人的被害は、あるのでしょうか?


農薬として使用する限り量的に安全ということです。となりで使っている程度では問題はありません。
オルトランは、コリンエステラーゼという生体内の分解酵素の働きを阻害する有機リン剤の一種ですから、限界以上の摂取などで人体に影響が出るとすれば肝臓のはたらきに異常が出るだろうと予想されます。水に溶ける性質や植物内に浸透する性質があります。通常、散布したものをすぐに洗わず食べない限り人的被害は出ないと思います。

「農薬として使用する限り量的に安全」という答えがある一方、オルトランの成分であるアセフェートは加水分解によりメタミドホスになります。

ギョーザや事故米で話題になっている、あの「メタミドホス」です。
メタミドホスは、国内では農薬として認可されていませんが、アセフェート由来の残留物として、農作物に残ることがあるとされ、食品衛生法に基づく残留農薬基準値のポジティブリストにも記載されています。

残留農薬基準値は、人体に安全な値とされています。

しかしそれは濃度の問題です。正しく使えば安全だ、という声もありますが、正しく使わなければ危険、ということでもあります。

「オルトラン」は商品名で、一般に流通している有機リン系の園芸用の殺虫剤です。オルトランの成分、アセフェートは、アメリカのシェブロン・ケミカル社が開発しました。一般の園芸店・ホームセンター等で、誰でも買える農薬です。

メタミドホスとオルトランの毒性については、
「京丹後のおやじのうんちく日記(19世紀の味の店)」にて以下の様に触れられています。

中国の研究では、オスのマウスにメタミドホスを投与すると精子の運動性が減少し、精子異常が増大。妊娠したマウスに投与すると、仔の体や行動上の発達に影響が現れるとの報告があります。
ADIC(1日の摂取許容量)は、0.004mg/kg体重/日です。
厚生省「食品中の残留農薬」(96、97年度)によると、日本の野菜からもメタミドホスが検出されています。これは、農薬として広く使われている有機リン系殺虫剤アセフェート(商品名オルトラン)の代謝物と考えられています。

オルトランの毒性については
大腸菌やサルモネラ菌で変異性ありとされています。
イースト菌やヒト胎児の培養細胞で変異原性あり。
マウスのオスの生殖細胞を用いた実験で変異原性を認めている。
アセフェート溶液をマガモの受精卵に塗布すると、雛の成長の遅れ、くちばし、眼や首の異常の報告あり。
EPA(アメリカ環境保護庁)はアセフェートを、ヒトに対して発がんの恐れのある農薬としています。

この二つの農薬の共通点は、何れも有機リン系の農薬であることです。化学構造式を見比べると、よく似ていることがわかります。

農薬は毒であり、
安全な農薬はない、と知るべきです。

農薬は、殺虫、殺菌、除草等を目的に開発されたものです。化学物質が人体に与える影響については、「住まいを予防医学する本」でも取り上げました。

園芸や庭木の「害虫」除去に農薬を使っている人では、効き目を求めるあまり、濃くしたり、回数を多く使いがちです。人的被害が出るときは散布している人が一番先にやられることを知っておかなければなりません。化学物質過敏症は、有機化合物を蓄積すると突如襲ってくる病気です。

「キンチョール」などの手軽に買える殺虫剤も、認可農薬ではないので、農作物には使えません。けれども、庭の木には、いくら撒いたってお咎め無しです。「害虫」の被害者は、効き目があれば何でも使いたいのです。そこに落とし穴があります。

「害虫はいない」、
という説を信じられますか?

「びお」編集部の庭に大きなニレの木があります。
樹幹が大きく、葉の繁りで部屋が暗くなるほどですが、虫はついていません。剪定も、ただの一回もしていません。繁るがままです。

スタッフの家のニレの木は、毎年ニレハムシにやられるそうです。そのニレの木は朝日が当らず、西日だけを受ける場所にあるので、木が不健康だからとスタッフの家人はいいます。毎年、剪定しても剪定しても、やってくるそうです。もみじにつく毛虫は、お箸で丹念につまみましたが、切りがなくやめたそうです。

けれども、事務所の木も、湖周辺の木も、虫にやられているという感じはありません。みると、蜘蛛がたくさんいます。小鳥もたくさんやってきます。生物連鎖が機能しているからも知れないと、スタッフの間で話し合っています。

そもそもをいうと、「雑草」がないように、「害虫」もない、と言う人がいます。人間が「害虫」と呼んでいるだけで、「一寸の虫にも五分の魂」があり、生物連鎖を壊すのはたいがい人間で、そのためある種の虫が大量発生するのだと言います。

建築家のアントニン・レーモンド夫人のノエミさんは、虫を殺さなかった人として有名で、いろいろなエピソードを残しています。やはり建築家の奥村昭雄・まこと夫妻も、虫に神経質ではありません。神経質でなかったら、知らぬ間に耐性ができるのよ、と言います。

しかし、そんなふうになれない人にとっては、過敏に反応せざるを得ないでいます。

もうすぐ、虫たちは土中に巣籠もりします。七十二候は、折しも蟄虫啓戸(むしかくれてとをふさぐ)をむかえました。虫が、土にもぐって戸を立てることをいいます。おもしろいですね。そうしてまた、来春、土を破って出てきます。そのときは、啓蟄です。


今夏のブログの記録を紐解いて、さぁ、来年に向けて対策を立てましょう。

「びお」が選んだ無農薬で頑張っている人のブログ

アブラムシにはテントウムシ!!なんだな!
http://hatake.exblog.jp/8883761/
小さな畑の庭にも食物連鎖
http://hatake.exblog.jp/8989107/
天敵による虫退治。アブラムシにテントウムシは有名ですが、チュウレンジバチ→アシナガバチ、そしてアシナガバチ→スズメバチとなると、ちょっと腰が引けますね…できれば鳥に食べてほしい、という気持ち、わかります。
コンパニオンプランツ
http://blog01.nagomiwata.com/?eid=734262
野菜とハーブの混植で、有機無農薬栽培をされています。
ドクを持って毒を制す?
http://spygrass.blog102.fc2.com/blog-entry-408.html
庭にあるドクをつかって虫退治?ドクダミでマルチ。
毒薬つくりPART2(^^;)
http://spygrass.blog102.fc2.com/blog-entry-447.html
自然殺虫剤のレシピです。自然由来のものでも人間に害があるものもありますから、取扱い注意。
アヤメ咲く頃、畑の真ん中で虫を相手にひとりごと・・・
http://irohajyuku.exblog.jp/8091609
アブラムシに牛乳で対抗。「無農薬の野菜は手がかかりますなぁ。」
ヒヨのヒナ♪キュウリを喰ったのは!?
http://happytomatodesu.blog96.fc2.com/blog-entry-488.html
ハバネロの直置き、ストチューなどで虫と対決。大変だけど楽しそうです。
カモ来たる
http://sinichi-s.cocolog-nifty.com/tao/2008/06/post_b415.html
無農薬米の栽培日記です。カモや油、石けん等。無農薬ってやっぱり大変なのです。
イモチ病対策の秘策とは…
http://iio-jozo.livedoor.biz/archives/50675836.html
びお特撰こだわりブログ「酢を造るといふ仕事」より。酢づくりのために米をつくり、その米づくりのために、農業用の黒酢をつくられているとか。