おひさまと二十四節気

Vol.20  小雪・霜柱

霜柱を踏む楽しみ

大人になっても霜柱を踏むのは楽しいです。靴はどろんこになります。
(画・祖父江ヒロコ)


今年は、寒さが舌を巻くような早さで突然やってきました。二十四節気は、各節気ごとに三つの候で構成され、初候・次候・末候と進むにつれ、計七十二の候がさらに細かな自然の移り変わりを伝えてくれますが、そんな繊細な感覚を慈しんできたがゆえに、一気に・まとめて・いきなり変わることに対して戸惑いをもってしまう、日本人はそんな民族なのかもしれません。

二十四節気「小雪」の初候は「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」。以降7カ月間、日光が弱まって虹が見えなくなる頃を言います。虹は、水滴がプリズムの役割を果たし、光が分解され、赤から紫までの光のスペクトルが並ぶ現象です。次候は「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」。読んだだけでも、思わず身を固くしてしまいます。事務局のあるここ浜松は、冬も温暖でたいへん過ごしやすい地域ですが、唯一、遠州の「(から)(かぜ)」には、“この風さえなかったら. . .”と思わせるものがあります。
空っ風は、天気続きの日に吹きすさぶ山越しの乾いた北風(冬に吹く北西方向からの季節風)で、日本海を渡るときに水分を持ち込んで脊梁山脈にぶつかり、日本海側に多くの雪を降らせ、山を越えた太平洋側では、乾燥した風になります。そして迎える末候は「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」。色づき始めた橘の実の黄色と常緑樹のつややかな葉の緑色との共演は、冬の始まりを端正に彩ります。

さて、早朝のお散歩でしょうか、サクッサクッと霜柱を踏み締める音が、天使爛漫な笑顔とともにイラストから想像できます。「霜柱」は、湿っぽい軟らかな土質に、地中の水分が柱状の氷の結晶となって林立する現象ですが、実は、霜という名が付くにも関わらず、霜とはまったく関係はありません(出来方が違う)。霜の顕著な朝にできることが多いことから、霜という文字が用いられたようです。

このような自然の現象のその名前と姿を豊かなビジュアルを通して知ることができる書籍に、『空の名前(高橋健司著・光琳社発行)があります。空や天候、気候の移ろいに関する日本語を、それをイメージした写真と共に紹介するこの本は、雲・水・氷・光・風・季節という章立てを通し、<地球がスタジオ(・・・・・・・)>として、その連綿と続く尊い生命の鼓動を感じ取ることができる「歳時記風天気図鑑」です。ちなみに、「霜」は水の章で紹介され、()つの(はな)・さわひこめ・青女(せいじょ)などの美しい異称を持ち、また、はだれ霜・霜たたみ・霜の声などの日本語があることを伝えています。“しんしんと冷えて霜を置く音が聞こえそうな感じがするのを霜の声という”──日本人は、本当に、ロマンチストですね(笑)