森里海から「あののぉ」

8

洞下(ほらげ)集落

伝統的な造りの屋敷とそれを囲む樹木

茨城県つくば市北西部にある洞下集落。ここには街道沿いに風格ある門・塀・建物が連続する伝統的集落景観が残っています。

伝統的集落の塀

中心の街道からの集落の風景

書院造りの門

特徴的なのは各家々の街道と反対側に屋敷林が連続していること。google earthの上空写真を見るとその様子がよくわかります。

屋敷林と伝統的な造りの屋敷

家の裏には屋敷林

洞下集落
googleマップより

屋敷林とは家屋の周囲に防風林などとして植樹されたもので、その効用は防風、防音、肥料や燃料の供給、日射の遮蔽などに加え、鳥類の生息地や越冬地などビオトープとしての機能も併せ持っています。地域の生態系をつなぐエコロジカル・ネットワークを形成する場所として、建築群とともに地域の風景をつくっています。

屋敷林に囲まれた住宅と畑

住宅の背後に屋敷林が拡がる

雑木林に囲まれたベーハ小屋

洞下集落の中にあるベーハ小屋

ここ洞下では、各家が今でも自身の屋敷林を守り、伝統的景観が維持されています。屋敷林は島根県出雲市の「築地塀(ついじべい)」や富山県砺波平野の「カイニョ」、東北地方の「居久根(いぐね)」など散居村に見られる場合が多いのですが、ここ洞下のものは南北に連続する屋敷林で、しかも集落の東側と西側の両サイドに存在するという珍しいタイプです。散居村の屋敷林が、点在する「飛び石ビオトープ」なら洞下のそれは連続する「コリドー(緑の回廊)」としての役割を果たしています。ビオトープとしての屋敷林が地域の美しい景観を維持することに一役買っているのです。美しい風景はたいていの場合、豊かな生物多様性を育む場合が多いように思います。地域独自の風景が地域独自の生態系、生物多様性を支えているのですね。

田んぼの向こうに見える屋敷林

屋敷林の外側から屋敷林を見た風景。この奥に集落が連なる。

屋敷林の樹種はシイ・タブ・カシを中心とする常緑広葉樹(照葉樹)の場合が多く、「鎮守の森」の樹種とだいたい一致します。日本の原生林(太古の昔から存在する森)はそのほとんどが照葉樹林だと言われています。原生林としての照葉樹林から「鎮守の森」や「屋敷林」をつなぐエコロジカルネットワークとしての集落、建築群。これからの街のあり方に大きなヒントを与えてくれてるように思います・・・。

屋敷林の外側から見た景色

※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士