森里海の色
四季の鳥「バン」

名前の由来は田の番人

9月に入り秋の気配を感じるようになりましたが、まだまだ暑い日が続いています。8月から9月の中頃までは干潟を除くと、1年でいちばん野鳥観察が難しい時期です。鳥見おあずけに耐えられなくなると、朝夕の数時間、私が訪れるのは近郊の公園です。先日行った公園のバードサンクチュアリには汽水池や人工干潟、淡水池があり、その周囲に観察小屋が設置され、野鳥たちにストレスを与えずに観察をすることができました。
この日、観察小屋の窓近くに現れたのは、バンの親子。親に続いて、ヒナが4羽、池から上がって、親の後に続きます。ヒナの黒い柔らかい毛に水滴が光っています。親が若葉をヒナに与えると、ヒナは瞬時に食べ、遅れまいと親の後を追っていきます。親子が見えなくなるまでじっと見入ってしまいました。
バンのヒナの巣立ちは驚くほど早く、孵化してわずか2、3日で巣から離れ、自分で歩くようになります。25日ほど親から餌をもらい、その後は自分で採餌するようになり、40~50日経つと、ようやく飛べるようになります。
バンは東日本では夏鳥で冬には暖地に移動しますが、西日本では1年を通して見られる留鳥です。体長は35センチとハトくらいの大きさ。成鳥の雄雌は同色で、体は黒い羽毛で覆われており、背中の羽は茶色味を帯び、脇に目立つ2本の白線があります。額にくちばしを延長したような額板があり、くちばし・額板、それに長い足は黄色をしていますが、繁殖期になると、くちばしと額板は赤くなります。
バンと似ている鳥にオオバンという鳥がいます(下の写真)。湖沼や川や公園の池でも群になって頭をふりながら泳いでいるのをよく見かける鳥なので、ご存じの方も多いと思います。オオバンは体長が39センチとバンより少し大きく、体のほとんどが黒く、くちばしと額板が白いのでバンとは容易に区別がつきます。バンの脚には水かきがありませんが、オオバンの脚には水かきがあるという違いもあります。

鷭 ばん おおばん オオバン

バンは漢字で「鷭」と書きます。名前の由来はバンが「クルルッ」と大きな声で鳴き、この声が水田を外敵から守る番になったことからと言われています。警戒心の強い鳥ですが、古くから人の近くで暮らす身近な鳥であったことが名前からわかります。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。