森里海の色
四季の鳥「トウネン」

派手な夏の装いと地味な冬の装い

春と秋のシーズンに毎年、通っている干潟があります。それはふなばし三番瀬海浜公園。東京湾の最奥部に広がる約1800haの広大な干潟です。もともと東京湾の海岸の水深は浅く、広い干潟を形成していましたが、次々に埋め立てられ、いまでは潮干狩りのできるような干潟は東京湾全体のわずか10%も残されていません。遠浅の海には潮の干満により豊富に酸素が供給されるため干潟の小動物や魚介類が育ち、それを求めて春秋のシギやチドリの貴重な中継地になっています。

当年 とうねん

ここで見られるシギのなかで数も多く、最もポピュラーな鳥はトウネンという鳥です。全長は14〜15cm、ほぼスズメと同じ大きさで、シギ科の鳥のなかでは小型の鳥です。トウネン(当年)という変わった名前も、今年生まれた赤子のように小さいことに由来しています。
夏にシベリア北東部やアラスカ北西部のツンドラ地帯で繁殖し、冬は東南アジアからオーストラリア、ニュージーランドにかけての地域で越冬します。春と秋の渡りの途中、三番瀬に立ち寄る旅鳥です。
上の写真は9月初旬、下の写真は5月中旬に撮影した写真です。季節によってずいぶん羽の色が違うことにお気付きいただけると思います。春に見られる成鳥の夏羽は顔と胸、背が赤褐色をしていますが、8月下旬から9月初旬に見られるトウネンは冬羽への移行期で赤みが薄くなり、三番瀬のトウネンのほとんどが旅立つ9月下旬頃にはさらに冬羽の度が増して、全体的に灰褐色に変わります。
上の写真は潮が満ちてきたので、沖から戻って干潟の後背地で一休みしているときに撮ったものです。潮だまりのあちらこちらにトウネンがいました。トウネンたちはどんどん私のほうに近づいてきました。おじさん、休んでないでもっと私たちを撮りなよと言わんばかりに。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。