ちいきのたより

Vol.56  譲り合うまちなみ
新潟県糸魚川市 カネタ建設

季節は大暑から立秋へ。そんな季節に、あえて私たちの住む新潟県上越地方(上越市・妙高市・糸魚川市)の冬の暮らしについて触れてみたいと思います。

みなさんは、「雁木がんぎ通り」をご存知ですか。昔から日本屈指の豪雪地帯として知られているこの上越地方が発祥ともいわれています。旧街道筋やまちの中心機能を担う商家などが連続するまちなみには、今もこの雁木通りがあちらこちらに残っています。
雁木通り
雁木がんぎの語源は、鳥の雁の群れが斜めにジグザグに連なって飛ぶ様子に似ていることが由来とされ、南の地域では石段や石垣など階段状の構造物のことを指すことも多いのですが、私たちの地域では、道路に面して並ぶ町家の正面に付随して作られた支柱付の軒庇のきびさしを雁木と呼びます。

その軒を連続させることで、雨雪をしのぎ、夏は日よけとしての機能をもつ通路が形成されます。
雁木通りは、まさに、豪雪地に暮らす人々の生活の知恵といえます。

上越市高田の雁木通りは軒の下が通り道

また、雁木は、それぞれの家主が自分でお金を出して作ります。そこに暮らす住人たちが私有地を歩道として提供し合ってつくられた公共の通路。雪国の厳しい生活に共に譲り合い、助け合って生きていこうとする地域の人々の思いやりとやさしさを象徴するような建築物です。

中でも、江戸時代、城下町であり宿場町としても栄えた上越市高田の中心街には、総延長約13kmに及ぶ日本一の雁木通りが今もなお現役で存在しています。明治初期に出された雁木取り壊し令によって各地の雁木が取り壊される中、地元住民の共助の精神によって江戸時代から現在まで脈々と守り継がれた雁木のまちなみは、まさにこの地域固有の財産といえます。
干し柿がいっぱいの雁木のまちなみ
今でこそ小雪の年が続きますが、ひと昔前の高田のまちは、豪雪時、屋根雪を下ろすと2階の高さまで道路に雪が溜まりました。すると、雁木のおかげで軒下には通り道が確保されます。そして、道路を挟んだ対面の家同士はお互いに雪のトンネルを掘ることでつながります。さらに、町家造りの家はそれぞれ表玄関から通り庭と呼ばれる細長い土間を抜けて裏口へ出ることができたので、当時は家の中も近隣住人共有の通路となっていました。

深い雪の下では、まるで蟻の巣のように自由な人々の往来があったのです。江戸時代には、雪に埋まった街の位置を知らせるため、「この下に高田あり」と書かれた高札が立てられていたという逸話もあります。



そんな雁木通りは、子どもたちにとっては通学路でもあり、格好のあそび場。昔は近所の子どもたちが集まってコマ回しやメンコ、おはじき、縄跳び、ケンケンパ、冬はつららでチャンバラごっこなど・・・。幅が狭く、行き交う人の肩が触れるほどの距離感も魅力の雁木通りは、この地域の人々の譲り合いの精神、見守り合う文化を育んできたのです。
雪の雁木通り
しかし、そんな雁木通りも、近年、少子高齢化や商店の廃業に伴う空き地の増加や旧市街の急速な衰退、住宅の建替え等により、徐々に雁木が作られない歯抜けの箇所が増えていく傾向にあります。一人一台マイカーを所有する時代。再築の際には、家の正面をセットバックし、そこにカーポートを設置するケースも目立ちます。まちなみとしての価値が損なわれつつあるのは、少し寂しい感じがします。

一方で、地域の町内会や多くの市民団体、有志の手によって、雁木の保存と活用を全市民の活動に拡大していこうという輪が広がりつつあります。その地域のまちなみや景観を守ることはもとより、雁木の精神である「人を思いやる温かい心」を継承すること、高齢化社会を見据え、歩いて暮らせる、人にやさしいコンパクトなまちづくりを目指すことなど、これからの地域のあり方を考えるにあたり、雁木の存在価値、重要性はとても高まっているといえます。

高田の雁木通りには、江戸時代から隆盛を誇った「旧今井染物屋」や日本最古級の映画館「高田世界館」(現在もNPOの手によって現役の映画館として稼働中)など、数多くの歴史的価値の高い建物が現存しています。また、明治時代の町家をリノベーションした「町家交流館・高田小町」には、無料の休憩・案内所があり、館内のギャラリーには豪雪時代の高田地区の古い写真も展示しています。

日本最古級の映画館高田世界館高田世界館

町家交流館・高田小町

町家交流館・高田小町


そして、高田の雁木通り周辺では、明治43(1910)年から100年以上脈々と受け継がれている上越の朝市が有名です。ここに立ち寄れば、きっと雁木通りの文化で育まれた高田地区の人々の人情と笑顔に出会えるはずです。
雁木通りの朝市

ご興味を持たれた方はぜひ一度上越地域へ。雪国の人たちはどこか温かい・・・そのルーツに触れてみませんか?

カネタ建設猪又直登
ちいきの記者
猪又直登 いのまた・なおと
新潟県糸魚川市生まれ。
大手玩具メーカーでキャラクター版権を扱う仕事から家業の建設業へ異色の転身で現在社長。
学生時代は70年代ロック・R&Bをこよなく愛するバンドマン。
現在は出張先でディープな居酒屋めぐりが趣味。検索キーワードは「地名」+「吉田類」。オーセンティックバー&スコッチも大好き。

 

新潟県糸魚川市中央2-4-2カネタ建設施工事例
(株)カネタ建設かねたけんせつ
新潟県糸魚川市中央2-4-2
TEL:025-552-0456
URL: https://www.kaneta.co.jp
    https://www.kinoie-niigata.com

「オンリーワンの住まいづくり」
創業昭和8年。85年以上の歴史をもつ新潟県糸魚川市の老舗ビルダー。「小さな邸宅 キノイエ」をはじめ、個性的な住まいを数多く設計施工。現在は、建築・土木はもとより、不動産、介護から機能訓練まで住生活をフルサポートするワンストップ企業を目指してサービスを展開中。

ちいきのびお参加工務店さん全国図

ちいきのびお