工務店女子が伝えたい家づくり

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ミスマッチを避けたい!

最初に自己紹介させていただくと、私は生まれ育った愛知県西尾市という町で、社長であり夫の経営する工務店(イシハラスタイル)で建築士として家づくりに携わっています。
わたしたちは、西尾市を中心に車で30~40分ほどで移動できる距離を目安に建築可能範囲としています。
工務店とは、家を建て住み暮らそうと考える人々と同じ地域に住み暮らし、その人たちの家をずっと見守ることができるような「かかりつけ医」のような存在でありたいと思っています。

私の業務は主に住宅の設計ですが、「工務店」は実際家を建築する工事を請負うというのが仕事です。
施主から直接要望を聞き取り、住まいのイメージを共有し、図面化し実現する。とても長い時間施主と話をし、情報を整理しながら施主の思いを形にする仕事です。
ところが、最近に特に気になることがあります。それは、家づくりを考えている「施主」に必要な知識や感覚が不足したまま家づくりを進めてしまう方が、少なからずいるということです。それは、違和感としてわたしの感覚に残ります。

情報に溢れた今の世の中となり、昔から行なってきた家づくりがこんなにも分かりにくく施主を混乱させてしまっているのかもしれません。
住みたい家は人それぞれで、正解というものはないのですが、皆、永く同じ土地、同じ家に住み暮らしたいという願いで一生懸命に考えて家造りに取り組んでいると思っています。それがどうしてか30、40年で家の建て替えを決断したり、壊して移り住んだり、先行きに不安を覚えながらも住み続けている状態になっていたりする人がでてきてしまっているのも現実です。

どうしてこのような問題が起きてしまうのでしょうか。
自分たちが携わった家が、人が、困らないようにするのは理想です。

家が壊される理由を考えてみると、老朽化だけが原因では無いように思います。決して、40年ほどで住むには安全が確保できなくなるほどの老朽化が進むとは思えません。
では、何か? 家を建てようと希望に満ちた時と、30~40年後の住まい手の気持ちの変化、建物の変化について知る必要があるのだと思います。そこの想像力が欠落してしまうと時間の経過とともに人と建物の変化でミスマッチが起きてしまう。そのミスマッチが大きければ大きいほど、短期間での建替えリスクが高まるという訳です。

そのミスマッチを避けることを考えてみました。すべて、新しい発見ではなく、建築を手掛けている人なら知っていることばかりです。そして、すぐにできることばかりです。

建替えリスクから施主を守るための3つのポイント

1.自然素材を使用する
日本人が古くから使用してきたものを使う。木、石、土、紙、革、鉄など素材です。
昔のような家づくりをしようと言っているわけではありません。新しい技術や素材はうまく取り入れ、温熱の環境も整え、ただ素材は経年で劣化するものではなく、廃盤の起こりやすい工業製品を使用しないこと。それらは、長い年月、家を保ち住み続けるためには適してないものであると理解する必要があります。自然素材の一番の良さは、風合い、手触りのよさ、長年使用することで愛着の湧くものとなり、経年変化をしても古さを感じさせないことです。

2.メンテナンスする
最近では、メンテナンスを気にする方が増えています。でもその意味が取り違えられているようです。メンテナンスは無い方がよいのではなく、メンテナンスができるものを選ぶことです。例えば、手入れは必要ありませんという商品があるとします。それは10年、20年はノーメンテで放置も可能かもしれませんが、50年の想像まではされていないと思います。
50年後もメンテナンスは要りません、という素材には今までであったことがありません。(石は例外でしょうか? 種類によってはあると思いますが)そんなに便利なものがあれば、皆使いたいでしょう。

メンテナンスが必要ないと勘違いして、交換や手入れ方法を検討せずに採用してしまったら、やはりそれは建替えリスクになる可能性高いです。一方、メンテナンスできるということは、手入れや交換ができることを意味していて、家は壊さずに住み続けられるということだと思います。手入れや交換のために、簡単に取り外しできるよう作ることも大切です。

3.プランを最適に
リビングが何畳で、ダイニング、キッチン、子供室、和室に書斎。間取りのことは一番の興味のある所だと思います。一度しかない家づくりで後で困らないようにと思いを巡らすことでしょう。でも、大切なのは間取りじゃなくて、どこに、誰が、どんな人が、どんな暮らしをするか。敷地から受ける影響も多大ですし、暮らす人のライフスタイル、家族の距離感や、都会だったら近隣との関係性、地方なら庭との関係性などなど。住む人の人数の変化も考えておいた方がよさそうです。

道具が並ぶ階段横の壁には箒が並ぶ。木の壁はそのためにあるのか、木の壁だから箒が並んだのか考えるだけで楽しい。モノとの暮らしを楽しめる家は、時間を経て家族の思い出も一緒に並べられているように感じます。

「家は三度建てないと成功しない」という上手い言葉がありますが、プランニングをしっかり検討して、住まい手が納得できたプランニングの家ならば、家づくりは一回で成功できると思います。

この3つのポイントですが、誰でも実行できそうなことばかりですし、工務店だけではなく建築に携わっていれば誰でも思うことだと思うんです。今までも、たくさんの人がこの問題を提議してきたことです。
でも、どうしてだか解決出来ていません。それは、家を建てる建築側の問題でもありますし、施主の意識の問題でもあります。
私が建築の世界に飛び込んで15年ほどですが、この問題は解決するどころか加速して問題の慢性化をしているように思います。

最終的に困るのは施主の皆さんです。工務店女子は施主の皆さんのために一生懸命に家づくりのお手伝いをする存在でありたいと思っています。あとで、知らなかった、困ったなという結果にはしたくないと願っています。だから今、正しい家づくりについて、もっともっと分かりやすく、伝えて続けていきたいと思っています。

家づくりにおいて、安心して長く住むことのできる、お気に入りの家を建て、壊されない家にすることでゴミをできるだけ出さないようにすることができる。自然素材を利用することで日本にたくさん存在する木材や資材を適切に使用し、森を守り、自然素材を扱う仕事が継承されることを願い、未来の子供たちがずっと安心して家づくりができる世の中にしていく。

まず家を建てようと思ったら一番最初に知って欲しいこととして、読んでもらえたら幸いと思います。

著者について

石原智葉

石原智葉いしはらともよ
工務店女子
愛知県西尾市生まれ。釣りが好き。月を見るのが好き。地元食材や、地元で作られたものが好き。 シンプルな暮らしにあこがれる。これは、まだ実戦途中。 設計の仕事では、お客様のプライベートにぐっと入り込んでお話しします。たくさん考えて出した答えは後悔することが少ないので、満足できる家づくりに繋がります。お互いに信頼しあい、人間関係を築くことも家づくりに携わる上で大事な使命だと考えています。
イシハラスタイルにて、家づくりの仕事をしています。

連載について

自然素材を使った家。 日々の住まいのメンテナンス。 工務店にとっては当たり前のことも、大手メーカーにはできなかったりします。 リノベーションも、工務店の力の発揮どころ。 けれど、そんな事実が伝わらず、家はどれも同じ、とばかりに建てて(買って)しまう人がとても多いです。 スクラップ&ビルドはやめて、地元の工務店・職人に家づくりをお願いしたら、どんなことが起こるのか。 工務店女子・石原智葉さんの「伝えたい」という気持ちにあふれる声をお聞きください。