町の工務店の「My定番」

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墨付け、手刻み、木組みの家づくり

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My(マイ)定番(ていばん)」。第三回目の訪問先は前回に引き続いて静岡県浜松市を拠点に家づくりをおこなっている工務店の番匠さんです。良質な木材の産地である天竜の山々を背景に、昔ながらの家づくりを現在まで続けてきた番匠の家づくりについてご紹介します。

代々受け継いできた大工による家づくり

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「和合の家」内観。「木組みの家」を探していた若いご夫婦の住まい。

社名の「番匠(ばんしょう)」とは、中世日本において木造建築に関わった建築工を意味し、大工の前身といわれています。
創業されたのは江戸時代末期で、創業当時から番匠と名乗り現在の眞瀬悦邦さんで七代目となります。
名前とともに創業当時から守ってきた大工が建てる家づくりを現在も続けています。そして「大工が建てる」ことこそ番匠のMy定番といえるものです。
使う材料はもちろん地元・天竜の木です。杉も桧も使います。使用する木材は原木市場で買い付けるのではなく、大工自ら山に出向き、伐採前に見て、触って、吟味して使用する材料を決めます。使う木がどのような場所で育ったものか、そしてその木を家のどこに使うかを見極めることは大工の重要な仕事です。
必要な分だけを伐採し提携する製材所で製材します。直接調達するため良い材料を安価に入手することができます。こんなことができるのも代々山や地域と密着して家づくりを続けてきたからです。

とはいえ、番匠が扱う木材はいわゆる銘木と呼ばれる木ではありません。樹齢70~80年生の木が主で、伐採後はしばらく葉を付けたまま乾燥させる「葉枯らし乾燥」することで、強度と美しさを引き出します。構造を見せることが多い番匠の木の家では、「美しさ」は強度とともに必要不可欠な要素なのです。そして、少なくとも木が育った時間だけ長持ちする家を建てることがつくり手の使命だと考えられています。
眞瀬さんは「今私たちが使わせてもらっている木は先代が植えてくれた木です。このサイクルを守ってきたからこそ、私たちは昔と変わらず木の家づくりを続けられるのです。そして、私たちもまた、未来のために木を植えなくてはいけません。」連綿と受け継がれてきた木の家づくりは、常に自然とともにありました。

加工場で墨付け、手刻み
伝統的な土壁と貫工法

山で乾燥、製材された木材は番匠の加工場に運ばれます。そして、完成した図面に従って大工の手により「墨付け」、「手刻み」がおこなわれます。墨付けは施工精度を左右する重要な工程です。骨組みの合わせを決め、捩れや曲がり、歪みを想定しておこなわなければならない墨付けは大工としての技量が問われます。番匠では金物に頼らない、仕口や継ぎ手による伝統的な「木組み」の技術を大切にしています。

番匠の設計室と作業場

番匠設計部の事務所(正面)と作業場(右手)。


梁と梁は継ぎ手で結び、また、柱と柱は横木でつなぐ「貫工法」を用います。金物+壁量で「固めて」しまう現代的な工法に比べ、貫工法による揺れや変形は逆に「しなやかに」揺れを受け流すことが実証され、伝統的な木組みの技術が見直されつつあります。


組み立てた柱

画像貫が差し込まれた柱。

土壁もそうです。番匠の壁の定番は「土壁」です。それも竹小舞のうえに厚塗りする昔ながらの本格的な土壁です。柱を貫通して壁の中に入れる厚貫(105×27mm)は、筋交いほど強くはないものの、地震時の建物の揺れに対して最後まで「粘る」構造的な特性も持ち合わせています。もちろん、土壁とともに断熱材も組み合わせることで、現代の断熱性を確保しつつ、土がもつ調湿性や蓄熱性、風合いは五感で感じる住み心地に貢献します。

プラン(建築家)と
ディテール(工務店)の融合

つくるだけでなく図面も描くのが番匠の仕事です。
しかし、プランは至ってシンプルで眞瀬さんは「古い日本家屋のように、あまり用途を限定せず、歳をとっても住みこなせる、どこで寝てもいいような家がいいと思っています。設備の更新や湿気が発生する水回りはなるべく下屋に納める、デッドスペースをつくらない、単純で明快なプランを心がけています。」と語ります。

そして、プランとディテールを分けてMy定番のあり方について次のように捉えています。
「工務店の仕事は繰り返しおこなう仕事です。つまり“ディテール”こそ工務店の仕事なんだと思います。それに対して“プラン”はその土地、その家族のものです。土地を読む力、住まわれるご家族個々の要望に応える必要があります。私たち工務店は日常の仕事で培ってきたディテールには自信があります。しかし、プランを描く力は建築家には及ばないところがあります。」
つまり、ディテールは工務店、プランは建築家が担い、それが上手く融合した姿がMy定番のあるべき姿ではないかと語りました。

今回の取材で訪れた家を見て、何が「番匠らしさ」なのか注意深く見てみましたが、全体的に低く構えたプロポーション、大きく軒の深い屋根、土壁による真壁、木組み、無垢の構造材や床材など、建築関係者には通じる「らしさ」は十分感じるものの、素人が一見してわかりやすい「らしさ」は見えてきません。例えば、窓や照明、キッチンなどは家によってバラバラで既製品が使われていたりします。
「そのあたりはお客さんに選んでもらっています。」
と、付帯設備的な部分に関しては無頓着な感じさえしました。

「大工がつくる」をMy定番として示す

素人には一見「ごく普通の家」に見える番匠の木の家ですが、家本体の本質的な部分、つまり「大工が建てる」ということは間違いなく番匠らしさを醸し出しています。かつて当たり前だった家づくりが、七代の時を経て、もはや希少な家づくりとなってしまったわけですが、この「番匠らしさ」は時を超えて地域工務店のあるべき姿を示しているようにも感じます。そして、きちんとその価値が目に見える“定番”として示されることで、建築関係者だけでなくより多くの一般の人にとっても選択肢に加わることにつながるのではないでしょうか。番匠がMy定番に取り組む意図はここにあり、それは多くの地域工務店、とくに“つくることに長けた工務店”にとって共通の課題でもあるはずです。

番匠の
「My定番」要素

・製材所と連携して立木を買い付ける(長物の調達)
・加工場で墨付け、手刻み
・木組みによる架構
・竹小舞+土壁
・融通無碍の間取り
・水回りはゲヤに集中
・デッドスペースをつくらない
・低く構えたプロポーション
・大きく軒の深い屋根
・真壁+無垢材の仕上げ
・器具や設備は選んでもらう
眞瀬悦邦
眞瀬悦邦(ませ えつくに)
有限会社番匠代表。1959年浜松生まれ。
浜松工業高校を卒業、10年間設計事務所に勤めた後に番匠へ入社。森と住まいの会(地域材を使った家づくり)共同主宰。
30年近く前から国産材の真壁工法の潔さに魅せられ、それ以降天竜材を素材生産、製材所と連携して材料を調達し、大工の手刻みの家を中心に取り組む。最近思うこと。建築に携わる大工、左官、建具、タイル職、等の次世代の担い手の参入は如何したらいいか模索しています。趣味は釣り、ゴルフ、美味しいものを食べること。
有限会社番匠
有限会社番匠(ばんしょう)
静岡県浜松市西区庄内町21-1
TEL:053-487-0154 FAX:053-487-0236(本社)
TEL:053-487-4055 FAX:053-487-4056(設計室)
URL:https://www.bansho-k.co.jp
ごく普通の家をーときとして施主の方が口にされるその言葉ほど曖昧で、なおかつ難しい要望はありません。けれども、率直にいえば、つくり手である私たちの理想もまた同様。まさしく「普通の家」にほかならないのです。十の住まい手があれば、十の住まいができあがる。それが店先で選んだ品物と、一からつくりあげるものとの違いであり、世の中のあらゆるものの中で最も「注文」の多いもの=それが「わが家」というものであってしかるべきと考えるからです。番匠は、住まい手としての「普通」と、家としての「必要」である「普通」、その二つを求め、しっかりと守り極めることを基本に、地域に根ざす工務店としての意義を果たしたいと考えます。