色、いろいろの七十二候

109

山茶始開・木枯らし

木枯し
こよみの色

二十四節気

りっとう

立冬
黄蘗色きはだいろ #FEF263

七十二候

つばきはじめてひらく

山茶始開
鬱金色うこんいろ #FABF14

木枯らしは、太平洋側地域の晩秋から初冬の間に吹く、風速8メートル以上の北寄りの風をいいます。冬型の気圧配置になったことを示す現象とされ、凩とも表記されます。

木枯らしといえば、ショパンの練習曲作品25-11(別名 木枯らしのエチュード)が思い浮かびます。
この曲は、持久力、器用さ、技巧を鍛える練習曲として、ピアニストにとって不可欠の技能とされます。主旋律のイントロダクションから荒々しく流れ出るあたりは、聴けば、ショパン的で、ピアニスティックで、みんなよく知っている曲です。
木枯らしの曲と言えば、小泉今日子が歌った「木枯しに抱かれて」という曲も思い浮かびます。 舌足らずな歌い方で、それを好ましいと感じさせるものが、少女の小泉今日子にありました。今は映画『毎日かあさん』の主人公でありますが・・・。

木枯らしを詠んだ俳句は、たくさんあります。

木枯しの果てはありけり海の音
  言水
こがらしや頬腫痛む人の顔
  芭蕉
木枯に岩吹とがる杉間かな
  芭蕉
木枯や鐘に小石を吹きあてる
  蕪村

江戸の町は、北西風や北風が吹き続け、土埃りの舞う町でした。このため眼病に罹るものが多かったといいます。「口の楊枝がピューと鳴る」というセリフで知られる『木枯らし紋次郎』(監督/市川崑)の舞台は上州ですが、あの映像に見られるような風と土埃りが江戸の町に吹いていたのでしょうね。
江戸時代の木枯らしは、言水や芭蕉や蕪村の句に見られるように、現代のわれわれの想像を超えるものがあったように思います。言水の句は、芭蕉の句に見られる木枯らしであるが故に、海に去った木枯らしにホッとしたさまが伝わってきます。

木がらしや目刺にのこる海のいろ
  芥川龍之介

龍之介の句からは、大正時代の木枯らしを感じます。痩せこけた目刺と木枯らしの関係を「海のいろ」が救っています。昭和の苛烈は、このあとにやってきました。「ぼんやりとした不安」を感じて自殺に至った龍之介は、この句にはまだ見られません。

海に出て木枯し帰るところなし
  山口誓子

海の果に行った木枯らしは、もう戻れません。第2次世界大戦中の特攻隊について詠まれた句で、誓子を代表する名句です。

吾子そろひ凩の夜の炉がもゆる
  橋本多佳子

この句はおだやかですね。木枯らしの吹く夜に子どもたちが寄ってきて、母のぬくもりと暖炉の暖かさを感じているさまが、じんわりと伝わってきます。

文/小池一三
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2011年11月08日の過去記事より再掲載)