森里海の色
四季の鳥「カッコウ」
チームで託卵する閑古鳥
憂き我をさびしがらせよかんこどり 芭蕉
あるけばかつこういそげばかつこう 種田山頭火
閑古鳥が鳴くと言われるように、カッコウにはうら寂しいイメージが昔からありますが、初夏、草原の開けた環境で「カッコウ カッコウ」と鳴く声には清々しさを私は感じます。
カッコウは日本には夏鳥として九州以北の原野や明るい林に渡来する鳥です。全長35センチほどの細身の体型で、頭部から背、喉にかけては灰色、翼上面は濃灰色、腹は白く細かい横斑があります。
日本にやって来るカッコウの仲間のホトトギス科の鳥たちには他に、ホトトギス、ツツドリ、ジュウイチなどがいます。姿はとてもよく似ているのですが、それぞれの鳴き声には特徴があります。「特許許可局」と聞きなされるホトトギス、「ポポ ポポ」と鼓を叩くように鳴くツツドリ、名前の通り「ジューイチ」と鳴くジュウイチ、鳴いてくれれば間違えることはありません。
ホトトギスの仲間のこれらの鳥には姿以外にもう一つ大きな共通点があります。それは他の鳥の巣に卵を産み、雛を育ててもらうチャッカリ屋だということです。爬虫類から進化した鳥類のなかには体温を一定に保てない種類がいます。それがカッコウの仲間たちなのです。自分で卵を一定の温度で温めて孵すことの難しい彼らは、進化の過程で託卵という子孫を残す方法を編み出しました。
春に「カッコウ」と盛んに雄が鳴くのは、自分のテリトリーを誇示し、雌を呼び込むためですが、初夏、テリトリーの決まった時期に目立つ木の天辺で鳴くのには別の意味があります。カッコウは一つのテリトリーに雌1羽に数羽の雄が性的なチームをつくります。雄が目立つ木の上で鳴くと、託卵されてたまるかと託卵相手のモズやノビタキの雄が追いかけます。雄の帰りが遅いと営巣中の雌も巣を離れる機会が出てきます。じっとようすを伺っていたカッコウの雌はその隙に数秒で卵を産み落とすと言われています。
草原を歩くと、遠くの樹木の枝にカッコウが尾羽をピンと立てた独特のスタイルでとまっているのをよく見かけます。宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」に、ゴーシュのところにカッコウがやって来て、外国に行く前にドレミファソラシドを教えてくれと頼む箇所があります。カッコウが体を曲げて一生懸命にいつまでも叫んだと賢治が書いた姿は、じつは託卵相手を誘い出すカッコウの巧みな作戦だったのです。