森里海の色
四季の鳥「シジュウカラ」

言葉を操る鳥

朝、仕事場の窓の外を眺めながらコーヒーを飲んでいると、ツツピーツツピーとよく通るシジュウカラの鳴き声が聞こえてきました。ベランダに出てみると、鳥たちがよく止まる桜の枝に、こちらにお腹を見せてとまっています。太いネクタイの雄です。胸のネクタイがよく見えるように上体をぐっと起こし、さらに頬の白が目立つように頭を左右に動かしています。繁殖期にはよくこうした姿勢で、他の雄に対して威嚇の姿勢を見せます。シジュウカラは市街地で繁殖する身近な鳥ですが、この鳥がなんと言葉を話しているということを昨年、京都大学の鈴木俊貴さんたちの研究グループが発表しました。

四十雀 しじゅうから

鳥たちがそれぞれ種類ごとに警戒音や餌のねだりの声、威嚇の声など様々な声でコミュニケーションをとっていることはよく知られています。たとえばシジュウカラはカラスやネコに対する警戒として「ピーツピ」、つがいの相手やいい餌場を見つけたときには「ヂヂヂヂ」と鳴きます。ただ、これまではそれらの音声に対して決まった反応を示す単純なものであると考えられてきたのです。
鈴木さんは何年もシジュウカラを観察するうちに、もしかしたらこうしたいわば単語をつなげてより複雑な意味にしているのではないかと考えました。そこで「ピーツピ、ヂヂヂヂ」と連続した鳴き声をテープに録音することで「敵が来たぞ、集まれ」という意味にして、シジュウカラに聞かせると、周囲を警戒しながらスピーカーに接近してきたといいます。ところが、「ヂヂヂヂ、ピーツピ」と単語の順番を入れ替えると、ほとんど反応しなくなったといいます。これは明らかに鳴き声の組み合わせに何らかの規則、言葉の構文のようなものがあることを示しています。
鈴木さんたちはさらに研究を進めました。シジュウカラは春から夏にかけては一夫一妻でテリトリーをつくり繁殖しますが、繁殖の終わった秋口から冬にかけては10~20羽の群で行動することが多く、コガラ、ヒガラ、エナガなどとカラ類の混群をつくります。そのなかでは他の種の様々な鳴き声の意味も理解していると考えられます。例えば、コガラは「ディーディー」と鳴いて仲間を集めますが、これはシジュウカラの「ヂヂヂヂ」と同義語と言えます。そこで「ピーツピ、ヂヂヂヂ」の代わりに「ピーツピ、ディーディー」という声を合成して、シジュウカラに聞かせると、周囲を警戒しながら音源に接近することがわかりました。ところが、「ディーディー、ピーツピ」と単語を逆にすると警戒反応も音源への接近も見られなかったといいます。これはシジュウカラが彼らの文法のルールに則って、はじめて聞いた音列からでも意味を正しく理解していることを示しています。
なんとすばらしい発見なんでしょう。林道で出会うカラたちはお互いに会話をしながら移動しているのかもしれません。もっともっと彼らの鳴いている姿を注意深く観察しなければと思います。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。