パリ郊外の社会住宅 L’îlot 8 (2) −L’îlot8と建築家Renée Gailhoustet

ところかわれば

森弘子

前々回2023年3月の記事、でパリ郊外の社会住宅 L’îlot 8について、特にL’îlot 8のあるSaint-Denis/サン=ドニと社会住宅の歴史について書きました。今回は、L’îlot 8の建築自体とそれを設計した建築家Renée Gailhoustet(レネー・ゲイルウステ)について。

L’îlot 8は、サン=ドニの歴史と、社会的住宅の歴史の中で生まれました。セーヌ・サン=ドニ県で開発・建設・コンサルタントを行う半官半民の会社 Sodedat(ソドゥダ)が1975年に設立されたことにより、国との交渉が改善され、プレーヤー同士の関係性が徐々に変化していきました。このサン=ドニでのプロジェクトの特徴は、区画を分割し、それぞれに建築家を選ぶという方法が採用されたこと。また、社会住宅と店舗やオフィスが混在した構成で建設されることが決定しました。
1977年、レネー・ゲイルウステがL’îlot 8の設計を依頼されることになります。L’îlot 8は、1981年3月に計画許可を取得し、その後1986年に最初の居住者が入居しました。構成は、185戸の社会住宅(19,314m2)、オフィス、店舗、保育園、駐車場からなります。

L’îlot8の外観 地上階には商業施設が入り、地下には駐車場、ペデストリアンデッキレベルに住居やオフィス、集会所、保育所、それ以上の階に住居が積み重なる

L’îlot 8の設計者であるレネー・ゲイルウステは、1931年に当時フランスの領土であったアルジェリアのオランで生まれました。エコール・デ・ボザールで建築を学んだ後、ジャン・ルノーディやローラン・シモネのアトリエで働きます。その後独立し、ジャン・ルノーディと共同で行ったイヴリー・シュル・セーヌ中心部の再開発で知られるようになり、このプロジェクトの成功から、L’îlot 8の責任者に任命されました。1963年以降、数多くの社会住宅を設計し、その豊富な経験を生かした設計を行います。社会的住宅の問題や発展について深い知識を持ち、フランスにおける社会住宅設計の第一人者とも言えます。

L’îlot 8は、1970年代に建設されたバーやタワー型の社会住宅ではなく、形状としても非常にユニークな建築で、地上階は商業やオフィスが入っており、2階以上に社会住宅が構成られ、2階レベルに住民のためのペデストリアンデッキが設けられ、隣接する別の社会住宅とブリッジでつながっています。ペデストリアンデッキは地上と、吹き抜けや階段の縦の動線で結ばれています。また、緑を植え、視線を空に向け、自然を感じることができるテラスも建築家は重要視し、人々が暮らすエリアに安らぎを与えています。しかし中でも特筆すべきは、レネー・ゲイルウステの、建築を都市の中に挿入することを考えつつ、都市のスケール、個々の住居に対する住民の生活にまで配慮した建築空間を考えている細やかさにあると思います。

L’îlot8の3階(ペデストリアンデッキの一つ上の階)の全体平面図 複雑な形状が見て取れる これは日本でいう建築確認申請用の図面だが、実際に建てられた際には計画に変更があり、微妙な違いがある
出典:Bénédicte CHALJUB, RENÉE GAILHOUSTET – UNE POÉTIQUE DU LOGEMENT, Editions du patrimoine, Centre des monuments nationaux, 2019

この比類なき綿密さは、もちろん20年以上にわたる彼女の社会住宅の研究によって形成されていますが、「都市計画の規制や管理施設によって平板化しがちな問題を解決することを建築家に義務づけ、環境への傾聴と想像力を動員しなければならないこれらの研究は、私にはまだそれに値する発展を遂げているとは思えない」という彼女の真摯な姿勢にもよると感じます。

L’îlot8のアパートの平面図(3戸) いずれもテラスがあり、一番下のアパートはメゾネットになっている
出典:Bénédicte CHALJUB, RENÉE GAILHOUSTET – UNE POÉTIQUE DU LOGEMENT, Editions du patrimoine, Centre des monuments nationaux, 2019

現在、水漏れやカビによる健康被害、ペデストリアンデッキでの違法行為などの問題に直面していますが、レネー・ゲイルウステは、当初サン=ドニの都市計画家が開発時に目指した、自然を受け入れながら都市で快適に暮らす人々に焦点を当てた庭園都市の実現に成功したと言えます。

次回は「L’îlot8の現状」として、歴史の流れの中で生まれた個性ある社会住宅の現在の様子をご紹介したいと思います。

参考文献:
・Bénédicte CHALJUB, RENÉE GAILHOUSTET – UNE POÉTIQUE DU LOGEMENT, Editions du patrimoine, Centre des monuments nationaux, 2019
・Claude CHARBONNEAUX, Saint-Denis, chronique d’architectures, Ed. PSD,1992
・Renée GAILHOUSTET, Eloge du logement, Massimo Riposati Editeur, 1993