フランス年金改革デモ

ところかわれば

森弘子

今回は前回お伝えしたL’îlot 8について書くつもりでしたが、思いの外つづいているフランスの年金改革デモについて様子をお伝えしたいと思います。

デモといえばフランスの名物とも言えるほど、フランス人は何かにつけて主張し、度々デモを行います。記憶に新しいものとしては、日本でも報道があったコロナ前の2018年年末から行われていた『黄色いベスト運動(Mouvement des Gilets jaunes)』があります。それ以上に大規模化しているのが、2023年1月に最初のデモが行われ、現在も継続している『2023年フランスの年金改革ストライキ(Mouvement social contre la réforme des retraites en France de 2023)』です。今回のデモはフランスで過去に行われたデモの中でも戦後最大と言われており、3月25日のデモにはフランス国内で350万人が参加したとの情報もあります。

今回の年金改革に対するデモの主旨は、ふたつ。ひとつ目は、法定退職年齢を62歳から64歳に上げることに対する反対抗議。ふたつ目は、年金の最低拠出期間を43年に引き上げることに対する反対抗議です。これらの新たな年金に関する措置は、エマニュエル・マクロン大統領のもと、エリザベート・ボルヌ政権によって計画されました。平均寿命が延びることにより、働き始める年齢が上がったこと、また受給年数が増えるため、今後の財源確保が必須となり、改革が検討されました。

元々は2020年1月に年金改革が計画されていましたが、コロナウイルスの蔓延に伴い改革を中断。その後2022年4月に再選を果たしたマクロン大統領は計画を再開、2023年1月19日に内閣が年金改革法案を提出しました。今回の大規模・長期化しているデモはそれに反発した労働組合などが開始したものです。

デモの様子(2023年5月16日撮影) この日は火曜日で小規模のデモが官公庁エリアで行われていた 小規模なため暴動などもなく落ち着いたデモ バルーンのついている車はデモの名物で、cgt(Confédération générale du travailの略、フランスで最も大きな労働組合『フランス労働総同盟』)のもの あたりは警察車両によって封鎖され、警官も多数出動し交通整理を行う

デモは基本的には警察に提出されたあらかじめ決められたルートで行進を行い、ビラを撒いたり、スピーカーで訴えを叫びます。しかし、一部は暴徒化したり、そもそもデモとは関係のない便乗する暴徒がものを壊したりします。付近の銀行はデモが行われる予定があると窓ガラスにベニヤ板を貼り営業を休止します。自宅付近の左岸でもデモが行われますが、ものが壊されたりするような危ない出来事は今のところ起こっていません。

とはいえ日常生活には多くの影響が出ています。公共交通機関はデモのある日は運休か運行範囲が限定、または間引き運転などが行われます。ある日は仕事で郊外に行かなければならなく、止むを得ずタクシーを利用することになりました。そのタクシーも出発開始早々デモによる道路封鎖の渋滞に巻き込まれ、思った以上に時間がかかってしまいました。また、通っている大学院の授業にも影響が。特に私の通うパリ第8大学は国立でかつ左派よりのため、教員や生徒のこの改革に対する関心も高く、「学生や教員が自由な意思を持ってデモに参加できるように」と、当初はデモ当日の授業が休止となり、その後学生と教員による会議の上、3月後半には1週間毎に学部自体が閉鎖、結果3,4月と約2ヶ月授業が休講になりました。中には勉学に対するモチベーションが上がらず、ドロップアウトしてしまう学生もでてきたため、4月末には授業が再開されました。

デモのない日は、見た目はいつもの美しいパリですが、この年金改革デモでパリの街を視覚的に変化させたのが、ゴミ収集業者によるストライキです。年金改革に反対するゴミ収集業者が、ゴミの回収を休止したことにより、ゴミがパリの街に溢れてしまいました。街の中では数十メートルおきにゴミが山積み・・・ちょうど暖かくなり始めた季節で臭いも大変なことになっていました。2週間ほどでゴミの収集は再開され、現在は通常通りの収集に戻りました。

3月下旬のパリ6区の道路脇に積み上げられたゴミの山 さらには天候が悪く雨が降り山はドロドロに、翌日気温が上がったため一週間放置されていたゴミはさらなる悪臭を放つことに・・・ ゴミの山に唯一喜んだのはパリのネズミたちだった様子

この法案自体はボルヌ首相により、3月16日に採決なしの強行採択がなされました。これに対し野党が反発、合憲性を判断する憲法院に審査を委ねていましたが、憲法院は4月14日、これを合憲と判断し、マクロン大統領が4月15日同法案に署名、成立させました。2023年9月初めには制度改革が実施されると予想されています。しかし法案が成立しても労働組合は引き続きストライキを決行。6月に入っても、終わる気配はなく、ストライキは長期化、デモも引き続き計画され、この記事を書いている6月8日もパリ市内でデモが行われています。

フランス人の常に主張するエネルギーと粘り強さにはいつも驚かされます。