まちの中の建築スケッチ

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萬鉄五郎記念美術館
——高台の美術館——

萬鉄五郎記念美術館

数年前に、釜石近辺での美術館を尋ねたら、花巻市東和町土沢にあるよろず鉄五郎の美術館を教えてもらった。唐丹からは、75kmほどの距離になるが、震災復興で高速道路が出来たので、車だとほぼ1時間で行ける。すでに5,6回は訪れている。

今回は、開館40周年ということで「萬鉄五郎と土沢『南画の系譜』」展をやっていた。江戸時代からの花巻の南画・文人画の橋本雪蕉(1802-1877)に始まり、菊池黙堂(1835-1899)、菊池素香(1852-1935)、そして萬雲樵(鉄五郎)(1885-1927)の作品が展示されている。多くは花巻市博物館所蔵のものというが、日本の後期印象派やフォービズムの草分けという萬鉄五郎が、若い時から学んだ南画、そして晩年になって、描いた南画が見られた。

中国では、溪谷に山並みが南画の風景としてあり、それは少しデフォルメしてやれば、三陸海岸の巨岩、松島の風景にも似たものを感じた。大きな風景の中では小さな人物が描かれていたり、また文人画は、仙人と思しき人や神様が描かれている。遠野と釜石の間には、仙人峠と呼ばれる場所もあり、昔は山深い場所であった。萬鉄五郎が描く原風景でもあったのかと想像した。

萬鉄五郎の生家の場所に美術館がある。本館は40年前に建てられたということだが、八丁土蔵とよばれる生家を移築した建物は、喫茶室と2階は展示場で美術館と一体になっている。土沢のまちが見渡せる北側の台地に建っている。八丁は、萬家の屋号だという。美術館は、鉄筋コンクリートで銅板屋根であるが、土蔵は、1階の腰までがナマコ壁、その上は、漆喰壁になっており、屋根は瓦ぶきである。美術館を見たあとで、八丁土蔵でおいしいコーヒーを飲むのもよい。

いままでもスケッチは、美術館が多いが、周辺の修景が建物を絵にしてくれているように想う。計画された公園の中の美術館もあるが、背景に山の緑を背負っているのも落ち着いた雰囲気が感じられる。なかなか良い場所にある。

土地柄にあった美術館では、萬鉄五郎の常設展に加えて、今までも棟方志功や安野光雅など、さまざまな企画展が催されている。きっとこの後も、何度も訪れることになると思う。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。