森里海の色
四季の鳥「ハイイロチュウヒ」

ヨシ原の真打ち登場

ああ、ハイチュウが恋しい。といってもお酒ではありません。ハイイロチュウヒというトビより二回りほど小さなタカの仲間の話です。
冬のシーズンに入り、師走の頃になってもまだ一度もこの鳥を見ていないと、無性に見たくなり、遠くまで出かけていきます。私が暮らす神奈川県ではハイイロチュウヒを見ることはほとんどできません。それは彼らの主な食料となるネズミ類の生息する広大なヨシ原や農耕地が、もう神奈川県には残されていないからです。
ハイイロチュウヒは10月頃になると少数がユーラシア大陸から利根川沿いの広大なヨシ原に渡ってきます。彼らの狩り場は個体ごとに決まっていて、朝早くから行動し、昼間はヨシ原や草地に隠れて休憩し、夕方また狩りをして、日が沈む頃に集団でヨシ原にねぐら入りします。
広大なヨシ原で彼らを見つけて観察することは大変です。そこで、夕方近くに彼らが塒に入るところを待ち構えて観察することになります。冬の夕日は釣瓶落とし。ヨシ原が赤く染まる頃から辺りが暗くなり、もう撮影が不可能という時間までが勝負です。
灰色沢鵟の雌

ハイイロチュウヒはヨシ原をすれすれに飛ぶので、出現するときはいつも突然です。最初に現れたのはメス。翼をV字型にして、こちらに滑翔してきます。腰の白さと翼下面の褐色の横帯が目立ちます。顔がフクロウのようにパラボラ形になっているのは獲物のかすかな音を集音するためです。ヨシ原を低く旋回したかと思うと、ヨシの間に瞬く間に姿を消しました。彼らの塒はそれぞれ場所が決まっていて、ヨシを押し倒してつくられています。
しばらくして、ようやくオスが現れました。頭から首にかけて灰色、体の下面は白、翼の先は黒、虹彩は黄色をしています。夕暮れのヨシ原の中で白く目立つオスのハイイロチュウヒの出現は、今か今かと待ち続けたバードウォチャーにとってまさに真打ち登場なのです。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。