森里海の色
四季の鳥「カケス」

だます能力を進化させた樫鳥

私が暮らす町からほど近いところに、三浦半島でいちばん大きな森林帯が広がっています。私は毎月、その林道を歩くことを習慣にしています。紅葉の季節に林道を歩いていると、森の奥から「ジェージェー」と鳥の鳴き声が聞こえてきました。カケスです。カケスは英名をEurasian Jayと言い、そのJayは鳴き声が由来です。

「ジェー」と鳴いてくれれば間違えることはないのですが、カケスは他の鳥の鳴き声をじょうずにまねます。例えば、ウグイスの「ホーホケキョ」、アオゲラの「キョッキョッキョッ」、最近ではガビチョウの複雑な鳴き声さえも学習してしまっています。さらに「ニャオー」と猫の鳴き声を聞いた人の証言や車のエンジン音さえまねると聞くと、それなら最初からもっと美しい声で鳴けばいいのにと思ってしまいます。
カケスはドングリが大好物。ドングリを咥えて、枝にとまっているところを目撃することがあります。カケスがカシドリ(樫鳥、橿鳥)と呼ばれるのは、樫の仲間のコナラやアラカシなどのドングリを秋に集め、地面や樹皮の間に埋めるところを古くから人びとが見てきたからでしょう。カケスは埋めた場所をすべて覚えていると言われますが、貯蔵したすべてを食べ尽くすわけではなく、種を森に広げる役割を果たしています。
面白いのはカケスがドングリを隠しているところを他のカケスに見られたとき、そのカケスは後でこっそり隠し場所を変えておくそうです。そのカケスは他のカケスが貯蔵したドングリを盗んだ経験があったんですね。英国のニッキー・クレイトンという研究者は、このことから自分の経験から他者の意図を推察する行為が人間と同じように動物にもあることを裏付けました。こんなことができる動物は他にはチンパンジーやゴリラなど類人猿くらいでしょう。カケスはじつにおかしな鳥です。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。