森里海の色
木版画が彩る世界「ホトケノザ」

「ホトケノザ」の名から、春の七草を想像しませんか?
でも、こちらはまったく別種、この時期から紅紫の花を咲かせる身近な植物です。


 
いつものように、植物の名前が気になる。
ホトケノザの名の由来は、葉を蓮華座に見立てたから…という説明があちこちで見られる。
でも、この葉って、どうみても蓮華座に似てないよな。

蓮華座というのは、菩薩像や如来像の台座にみられる蓮の花の台座のことだ。
けっこう分厚いあの台座、ホトケノザとは、葉にも花にも、全然似ていない。

困ったときは『牧野新植物図鑑』にあたる。

ヒントがあった。[漢名]寶蓋草、と記されている。寶蓋(宝蓋)は、いわゆる天蓋、台座ではなくて、逆に仏像の上にある、天井から吊るされた装飾を指すのだろう。

天蓋には大抵派手な装飾がついているが、ちょうど花が開いたホトケノザを逆さに見ると、そう見えなくもない。蓮華座よりはずっと似ている。

天蓋だったのが、どうして台座になってしまったのだろうか。

中国から名前が伝わってきた時に、単純に荘厳具同士で取り違えたのかもしれない。
天蓋を構えた草全体を台座のように見立てて、ホトケノザと呼んだのかもしれない。
実は仏像の台座は、かつてこんな形だった、のかもしれない。

いずれにしても、蓮華座に似ているから、ではない、といっていいと思う。

調べる動機がなければ、ホトケノザは蓮華座に似ているから、とおぼえておしまい、である。

世の中には、ホトケノザ的な事柄が、たぶん結構たくさんある。
「調べればわかる」けど、「調べる動機」を持つためにも、知識に貪欲でありたい。

文/佐塚昌則