森里海の色
四季の鳥「ヒドリガモ」

淡水カモの代表格

鴨の中の一つの鴨を見てゐたり 高浜虚子

冬の都市公園を散歩すると、池にカモの群がいて、気が付くと、その中の一羽を見入っている。虚子の句の情景が自分のことのように目に浮かびます。
日本で見られるカモの種類は40種を超えますが、カルガモやオシドリを除けば、そのほとんどが冬鳥として日本にやって来る鳥です。カモの仲間は比較的近くでゆっくり観察することができ、羽色や体型を比較しやすいので、バードウォッチングを始めるのに最適な鳥と言えるでしょう。
冬に見るカモの仲間はカルガモのような例外もありますが、ほとんどは雌雄でまったく異なる羽色をしています。これは冬羽(繁殖羽)で、実は彼らが日本にやって来て間もない10月頃の雄の羽(非繁殖羽)は雌の羽ととてもよく似ており、雌雄の識別はなかなか難しいのです。そのためカモ類の観察はビギナーからベテランまで楽しめる奥深さを持っています。

緋鳥鴨の雌

カモの仲間は大きく2つに分類できます。淡水ガモと海ガモです。淡水ガモは水面採餌タイプのカモで、主に川や池に生息し、食性は主に植物食。水面に浮いている水草のほか、陸上の植物も食べます。浅い場所では水底の水草をユーモラスな逆立ち姿で食べているのを見かけることがあります。
この淡水ガモの仲間で、近年全国的に到来数の増加をみているのがヒドリガモです。川や池だけでなく、湾岸でも見かけます。ヒドリガモの雄の成鳥は額から頭頂にかけてクリーム色、顔から頸は茶褐色、胸は薄茶色、嘴は鉛色、他の部分は灰色をしています。雌はすこし赤みのある褐色をしています。雄の成鳥の頭部が緋色に近いことから緋鳥と呼ばれていた時代があり、そこからヒドリガモと呼ばれるようになったようです。
ところで、水面でのんびりと首を背中に埋めて寝てばかりいるカモたちですが、いつ食事をしているのでしょうか。多くのカモの仲間は夜行性。公園のカモも夕闇にまぎれて池からあがり、ヒトの知らぬ間に近所に食事に行っているのです。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。