森里海の色
四季の鳥「トラツグミ」

もの悲しい声とユーモラスな仕草

ツグミの仲間にトラツグミという鳥がいます。体長30センチ、ヒヨドリとほぼ同じ大きさで、体の上面は黄褐色に黒い鱗状の斑があります。下面は白っぽく、やはり黒い鱗状の斑に覆われています。繁殖期は国内のすこし標高のある場所で暮らしていますが、冬になると都市公園の林縁でも見かけることがあります。
トラツグミを観察していると、ドリフターズの加藤茶と志村けんが踊っていたひげダンスのように、下半身を上下、左右にふわりふわりと柔らかく動かす面白い仕草をよく目撃します。これはおそらくモグラの振動を模していると思われ、驚いたミミズが地中から逃げ出すように誘き出しているのではないかと思います。トラツグミのミミズの躍り食いはほんの一瞬です。脚を踏ん張ってミミズを引っ張り出したかと思うと、もう嘴を閉じています。1秒間に10枚連写ができるカメラで採餌のようすを撮影してみましたが、2カットしかミミズが写っていませんでした。

虎鶫

冬の間、ユーモラスな姿を見せてくれるトラツグミですが、夏の高原で夜半から早朝に聞くトラツグミの鳴き声はなんとも悲しげです。ブランコが風にゆれて「キーキー」ときしむような音と言ったら伝わるでしょうか。日曜日のNHK時代劇で、よく夏の夜の効果音として使われています。トラツグミはかつては鵺(ぬえ)と呼ばれていました。夜に鳥と書きます。正体がわからない不気味なものをヌエのような存在と言いますが、そのヌエです。古く『万葉集』にもぬえ鳥は登場しています。

ひさかたの天の川原にぬえ鳥のうら泣きましつ
すべなきまでに

これは柿本人麻呂が七夕伝説に因んで片思いの悲しさを詠んだものですが、『万葉集』の頃にはトラツグミの夜の鳴き声は生活のなかに身近なものとしてあったのでしょう。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。