森里海の色
木版画が彩る世界「キヅタ」

教会などの壁面に見られるキヅタ。こちらは冬も枯れないフユヅタです。


 
暦便覧によると、寒露は「陰寒の気に合つて露結び凝らんとすれば也」とされている。

ところが、この寒露の直前の10月6日には、新潟県三条市で36度という、10月の国内最高気温を記録した。異常と言っていいだろう。
台風・豪雨の被害がとみに増えた。
このように、「異常」「災害」は当然ながら耳目を集めるが、その要因ともいえる「気候変動」には、決して関心が強まっているとはいえないように思う。人為的に起こした「変動」をどう抑えされるのか。植物のチカラをうまく借りる、というのは、その解決の大いなる一手のはずだ。

今回の版画、キヅタ(木蔦)は、ウコギ科の植物で、常緑のため、フユヅタとも呼ばれる。対してナツヅタとよばれるツタはブドウ科で、似ているが別の種類の植物だ。

ツタ、キヅタともに、つる性で、高いところに這い登っていく修正があるため、壁面緑化に使われる。壁面や屋上の緑化は、室内への放射熱を大幅に抑制することが知られている。知られているが、コストだったり(建材も含めた)メンテナンスのことなどから、特に住宅ではそれほど用いられていない。ただ、こういうものは単純にエネルギーコスト削減だけを目的とするものでもないので、他の省エネルギー手法と同列で語り難いかもしれない。

特にキヅタは、もとを正せば日射遮蔽用ではなく、装飾用だ。ナツヅタは葉を落とすが、キヅタは冬も葉を落とさない。
常緑樹は永遠のシンボルとされ、またつる植物特有の螺旋的な意匠も、継続や輪廻を表現するのか、キリスト教会によく見られる。
甲子園球場のツタはナツヅタとフユヅタの両方が使われている。

キリスト教会にも甲子園球場にも、日射遮蔽だけを望んでツタを這わせたわけではあるまい。宗教的、あるいは精神的な事象と科学的なことは、多くの場合、別に語られる。けれど、人生にはその両方が同時に必要になることが多いので、両方のことをいつも考えている。

文/佐塚昌則