森里海の色
木版画が彩る世界「クチナシ」
クチナシは、香りの高い純白の花が終わると、やがて大きな実をつけます。この実は漢方薬になるほか、料理の色付けにも使われます。代表的なものはおせち料理に欠かせない栗きんとんです。そろそろ年越しの季節がやってきます。
昔の僕はおせち料理に関心がなかったし、スイーツ好きでもないので、「栗きんとん」なるものにも、まるで関心がなかった。
はじめておせち料理に挑戦した時に、クチナシで色を着けることを知って驚いた。そもそも栗の色だと思っていたし、サツマイモを使うのも知らなかった。やってみて、さらに驚いた。こんなに激しく色が出るのか。無知は恥な場合もあるが、ときにこうして感動を生むこともある。
どうして植物の実で食べ物に色をつけようとしたのだろうか。スパイスの効用は、保存だったり、臭み消しだったりと、一次的欲求ライクなものが多い。だが、このクチナシやサフラン、ターメリックなどのスパイスは、それぞれに薬効が知られてはいるけれど、むしろ色付けという、いわば二次的欲求のような価値があるようだ(二次的、は言い過ぎで、1.5ぐらいかもしれない)。
有用植物は、人が「使って」いるようでいて、実は人が「使われて」いる、という説が好きだ。食べられる植物が美味しいのは、動物に食べられてその勢力を広げるためだ、という考えだ。だとすると、クチナシは、その染色能力をもって人類に自らの栽培を促し勢力を広げてきた、のだろうか……。
さて、今年もあと僅かとなった。おせち料理は、つくる時代から買う時代になった。色鮮やかな栗きんとんも、お金を出せばいくらでも手に入る。けれど、僕が感じた感動は、つくらなければ感じられない。こうして僕は、おせち料理原理主義者となった。
文/佐塚昌則