森里海の色
木版画が彩る世界「ネコヤナギ」
川辺にあるネコヤナギに花穂がつくと、いよいよ春がやってきます。たかだみつみさんの版画にも、寒さの中に湧き出るぬくもりを感じますね。
動植物の語源を手繰るのが好きで、本連載でもたびたび触れている。さて今回はネコヤナギ、これは強敵である。
なにしろ、ある年代においては、柳の下に猫がいる、だからネコヤナギ、だと思っている人ばかりだろう。もちろんこれは、西から登ったお日様が東に沈むぐらいに違うのだが、どうしてもそこに思考が引っ張られてしまう。
現在の定説は、春になると大きくなる花穂が猫のしっぽのようだから、ネコヤナギ、ということらしい。そうかなあ、猫のしっぽってもっと長いよなあ、本当は柳の下に猫がいたのではと(しつこい)思う人もいるかもしれない。
確かに最近は短い尻尾の猫をあまり見ないけど、ちゃんと短い尾の種類の猫もいる。「ジャパニーズ・ボブテイル」が代表格だ。名前の通り日本産だし、ネコヤナギの「ネコ」は、ジャパニーズ・ボブテイルだと推測している。
江戸時代のネコの浮世絵をみると、短尾種が多い。もちろん長い尾のネコも描かれているが、こっちは長生きすると化け猫(猫又)になる、なんていう言い伝えもあった。歌川国芳の描くネコなんかは、どちらかというと猫又方面だろう。猫といえば短尾の時代があったのだ。
猫のしっぽ、と一口にいっても、かように想像を膨らませることが出来る、それが名前の由来の面白さだなあ。
と、調べていると、ネコヤナギの別名に、エノコロヤナギという名もあった。エノコロとは犬っころが転じた言葉で、花穂が犬の尻尾のようだ、ということだ。じゃあ、もうひと想像してみますか…。
文/佐塚昌則