森里海の色
柿木村の一輪挿し
「クズ」

葛 くず

手入れの行き届かない裏の山肌を葛の蔓葉がはびこっている。
繁殖力の旺盛な蔓は厄介者のイメージが強いが大きな葉の裏に隠れるように
薄紫の花が咲いていた。

改めて見ると馨しい香りと艶っぽい色は大人の色香だ。

葉陰に咲いているので裏見草の別名がある。
裏見は恨みにも通じる。

クズと言い、恨みと言い、あまり嬉しい名前ではないのが残念な花なのだ。

まだ若くて青臭かった遠い昔、酒を呑みすぎてグータラな人生を送っていた時期があった。

このロクデナシ、とかクズッと罵られた記憶がある。

葛餅は好きだし花の色姿も好きだけど葛という語呂にはあまり良い思い出が無い。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。