森里海の色
柿木村の一輪挿し「クチナシ」


冬、雪の野に朱色の実を付けていたクチナシが梅雨明け間際に白い花を咲かせた。
辺りに甘い香りを漂わせ虫たちを呼び込んでいる。

クチナシの花はその清廉な色形から女性の形容になぞらえて歌謡曲でも永く唄い継がれている。
哀愁のある曲と切ない歌詞が日本人の琴線に触れて忘れられない名曲となっている。
指輪まで回るほどに痩せたお前の姿・・・というのは何か重い病気にでもかかっているのだろうか。
白く細い腕が目に浮かんできた。

歌と言えばJAZZ歌手のビリーホリデイは舞台の上ではいつもクチナシの花を髪に飾っていた。
黒い髪に白い花がスポットライトを浴びて艶やかだった。
ハスキーでブルージーな歌声とクチナシの花が妙にマッチして、夜レコードを聴いていると心深くまで染み渡る。

クチナシの花はやっぱり哀切の似合う白い花なのだ。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。