森里海の色
四季の鳥「カヤクグリ」

冬のマイフィールドの宝物

カヤクグリという地味な鳥がいます。頭部は暗褐色、上面は茶色に黒褐色の縦斑、胸も腹も灰褐色で、決して派手な鳥ではありませんが、私はこのシックな色合いが好きです。英名をJapanese Accentorといい、南千島、北海道、本州、四国の亜高山帯や高山帯で繁殖し、冬の間は低地に移動する日本の固有種といっていい鳥です(Accentorはイワヒバリのこと)。
私がこの鳥に出会ったのは10年ほど前、バードウォッチングを初めて間もない頃で、その時の感激は忘れられません。冬のある日、近所の林道を息子と二人で歩いていました。往路ではこれといった成果を得られず、林道終点から折り返して、私たちが「ハンミョウの崖」と名付けた辺りに来ると、ツリリと鳥の鳴き声がして倒木の下に初めて見るカヤクグリがいたのです。運悪くタイワンリスがカヤクグリの近くを通り、カヤクグリはいったんは姿を隠しましたが、しばらく諦めずにその場にいると、またアオジ2羽といっしょに現れ、湿ったコケの付いた崖で採食するカヤクグリをゆっくり見ることができました。

萱潜

なんだ、地元にいるじゃない! それまで高い山に行かないと会うことができないと思っていた鳥を地元で発見した感激は、バードウォッチャーにとってマイフィールドを持つことの大切さに気付くきっかけになりました。マイフィールドを1年を通して何度でも何年も続けて歩くことで、それまで気付かなかったそこに生息する植物や動物の姿が次第に見えてくるようになります。
私がマイフィールドにしている林道は小さな川に沿って続いており、両側の崖は岩盤の上を薄い表土が覆っているために、大雨が降るとよく崖崩れが起きます。カヤクグリを見つけるのはそうした崖崩れがあった場所が多いように思います。地上で落葉をめくって食物の種子や小昆虫を採餌する彼らにとって、そうした場所が好都合なのでしょう。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。