森里海の色
柿木村の一輪挿し「サクラ」

桜

中学の卒業記念にと親が植えてくれた二本の桜の苗木が今では地区のシンボルになる程の大木に成長した。

数年前、家を改修する時にその姿を家の中からでも楽しめるようにと屋根に天窓を穿った。
先月の寒さで一向に花開く気配がなく心配していたけど、四月になって気温がぐんぐんと上がり続け一気に花開いた。
佳い日が続き朝な夕なに天窓からその姿を愛でることができた。
桜というと薄紅色を思い浮かべるが満開の桜は限りなく儚い白に近い。

桜の花ほど出会いと別れの題材にされて多くの人に歌われた花は無いのではなかろうか。
そして小説の中でも人の機微の重要なシーンに扱われている。
坂口安吾は桜の森の満開の下は怖ろしいと物語った。
裏山の満開の桜を眺めていると確かに妖艶な気配が漂ってくる。

散る前に一枝摘んで花の絵の花器に浮かべてみた。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。