森里海の色
柿木村の一輪挿し「ホタルブクロ」

山あいの道を車で走っているとあちらこちらでホタル祭りの案内看板を見かける時節になった。
家の前の田んぼにはまだ蛍の姿を見かけない。
この地域のほとんどの田んぼが無農薬有機栽培の田んぼだから蛍にとって環境は言うことなしだろう。
蛍の餌のタニシが生きる環境が蛍の生息環境と直結するのだ。
子供の頃、用水路はまだ石積みの自然のままの姿でタニシやニラがうようよと生息していた。
コンクリート三面張りの水路になってから彼らが生きにくい環境になってしまったのは間違いない。
近くにある日本棚田100選に選ばれている大井谷の棚田は室町の時代から連綿と稲作が行われている美しい資産だ。
山の頂から流れる水を小さな石甕に溜め、そこから一筋の水がすべての田んぼに宛がわれる。
それらの田んぼの落水が集まる小さな谷川は今、蛍の乱舞する幽玄の世界を見せてくれる。

梅雨の雨脚の強い日にはこのホタルブクロの花傘に雨宿りするのだろうか。
平家の落人の集まったと言われる集落の美しい花が見ごろだ。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。