森里海の色
柿木村の一輪挿し「ネジバナ」

もじばな
一寸前までは土手のそこかしこに咲いていたネジバナも最近あまり見かけなくなったように感じるのは僕だけだろうか。
子どもの頃、細い茎に薄桃色の小さな花が螺旋を巻いている様は砂糖菓子のように見えた。

人には利き腕が右利きと左利きがおり、つむじが右巻きと左巻きのがいる。
そのことが個性を表したりする。
左利きは器用な人が多く、つむじが左巻きの子はヤンチャ坊主だったりと。
(僕は頭のてっぺんと額の生え際に計二個のつむじがあった。てっぺんは左巻き、そして額は右巻き。)

ネジバナにも右巻きと左巻きがあるのらしい。
花にも人と同じように個性があるのだろうか。

ネジバナの好きな人がいた。
素直だったり、時として拗ねたり、
妙にガンコだったり……。

僕はその人に翻弄され続けていたような気がしないでもない。  

ネジバナの薄桃色の花を眺めていたらそんなつまらないことを思い出した。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。