森里海の色
柿木村の一輪挿し「シャラ」

六月の雨は優しいはずなのに……。

裏庭の沙羅の木の花が雨に濡れながらも咲き誇っている。
朝開いた花は夕には落ちてしまう。
その儚さがこの花の宿命。

白い花弁にほんのり薄紅色が差してこの花を見るにつけ踊り子を思ってしまう。
踊り子はドガの絵であったり、伊豆の踊子でもあったりする。
白い顔に恥じらいの、ぽっ。

隣町の津和野は森鴎外の生誕の町だ。
沙羅の木は文豪にとっても何かしら気に留めた花であったようだ。

褐色の根府川石に
白き花はたと落ちたり
ありとしも青葉がくれに
見えざりしさらの木の花

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。