森里海の色
柿木村の一輪挿し「ヤブツバキ」

藪椿
山野辺はすっぽりと雪に埋もれ白銀の世界が拡がっている。
花が無いだろうからと花好きの知人が山肌で見つけたというヤブツバキを持参してくれた。
まだ蕾の状態だったけど家の中で温まったせいで少し柔らかになり三分咲きといったところだろうか。
シンとした空気は心を引き締めてくれるとは言え、毎日毎日が雪の中で過ごすと流石に気が滅入ってくる。
何年か前、色んな事が重なり気持ちの沈んだ時、友人に誘われ萩笠山のヤブツバキの群生林を訪れた。
光の零れる遊歩道に降るような椿の赤が眩くて気が解れたことを思い出した。
暖かくなったらまた訪ねてみたいと思う。

彩と音のない世界では人は生きてゆけない。
赤い花弁がどくと血を通わせてくれたような気がした。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。