森里海の色
柿木村の一輪挿し「ユキノシタ」

雪の下、虎耳草

裏庭の奥上段には山水を溜めるコンクリート製のタンクが造られていて亡くなった祖母や母が毎朝その水を汲みお茶を沸かしていた事を覚えている。
湯飲み茶わんに入れた熱いお茶とコップの清水をお仏壇に供えていた。
ずっとそれを見て育ったので今でもお勤めは続けている。
山の伏流水はミネラルたっぷりで美味しいお茶や珈琲が淹れられるのだ。

古びたタンクの余り水がホースで引かれている水辺に今、ユキノシタの白い花が咲き乱れている。
字の如く初夏に降る雪の様だ。

近づいてよく見るとその花弁はまるで群れて飛ぶ小さな妖精のようであり風に揺れると踊りだしているようにも見える。

光と風と水の微粒子に合わせて妖精たちの
ダンス、ダンス、ダンス。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。