季節をいただく

甘藷さつまいも

一夜干し芋と五色の芋甘酒

陽が昇り霞みはじめた山を眺めていると、早咲きの桜の蜜にメジロの声と和蜂の羽音。首筋を伸ばして歩けるくらいの陽気に、からだも三寒四温に慣れながら緩んできた。行事も多い時期、夜には街中にて謝恩会に参加した。看護師の国家試験合格発表を控えながらも、卒業式を終えたばかりの学生たちの舞台は清々しさに溢れている。隣席は、小学校の教員を長らく務められた戦前生まれの先生、今は晴耕雨読を楽しまれている。戦後間もない食べ物が少なかった頃の工夫、さつま芋から澱粉、干し芋づくり、自家採取の在来の種のことなど、楽しそうに語られる穏やかな笑顔。その向こうに、子どもたちの姿が見えた。

目白

翌朝、さつま芋を保管している箱を見ると、十種類ほどが大小さまざまにゴロゴロ、まだ、5キロ以上はある。いくつかには皺が入り手に取ると少し軽い。早生わせの品種は収穫してから半年近く、冬を越しているのでよく持った方だと思う。さつま芋は収穫してひと月ほどねかせた方が、甘さがのるものが多い。秋のはじめ三方原の羽田農園さんを訪ねると、畑は一面に蔓が伸び青々とした葉が茂っていた。ホクホク系のさつま芋三種、早生の紅あずまにはじまり、紅おとめ、なると金時と続く。

半田農園

収穫した芋は冬越しのために倉庫に暖房を入れて保管しているとのこと。その労あっての美味しさを無駄にはできない。早速、紅おとめ、なると金時を土鍋で蒸し上げた。ふかし芋は、そのままでも美味しいが、たくさん蒸したので干し芋に。丸干しだと時間がかかるので半分に割って、軒下に竹ざるを吊っての一夜干し。空気が乾き、風のある時期ならではの楽しみ。

一夜干芋

また、翌日の甘酒講座のために五色の芋甘酒も仕込む。紫芋を切ると白い澱粉が染み出る。さらに白い黄金千貫も加え、さいの目に切った5種類のさつま芋を倍量の水でコトコト。ほどなくして火が通ると粗熱がとれるのを待ち、さつま芋と同量の米麹を加えて保温し、ひと晩。甘くなれば出来上がり、冷めてから冷蔵庫にて、さらにひと晩ねかせると甘み深まり美味しくなる。

紫藷

紫芋は自然栽培の友人の畑から、数種のさつま芋を育てていて、時折、お勤めの学童保育の子供たちのおやつになる。ふかした芋が盛られたお皿に、次々と手が伸び、嬉しそうに食べる子どもたちの笑顔を思い出した。桜の枝を渡るメジロも、校庭を駆ける子どもたちも甘い蜜には目が無い。

おやつにさつまいも

五色芋甘酒:紅あずま、紅おとめ、なると金時、あやむらさき、黄金千貫(遠州)、あさのは屋白米麹(自然農法栽培あいちのかおり(農健、遠州磐田産)、麹製造(酒井製糀本舗、遠州浜松))
一夜干し芋:紅おとめ、なると金時(羽田農園、遠州三方原)
器:本原令子(静岡)、漆皿:新美清彦(愛知)

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。