季節をいただく

菜食カフェ厨

一汁三菜、五穀七草。空と大地のおすまし

「一汁三菜、五穀七草」。一月七日、人日じんじつの節句にひらかれる講座のお題。浜松の酵素玄米の菜食カフェくりやさんより、昨年に引き続き声をかけて頂きました。人日の節句は、大陸から暦と共に渡ってきた五節句のひとつ、旬の草木を愛で心身を養う行事です。江戸の頃、百五十年ほど前までは祝日とされ、現在は、無病息災のため七草粥をいただく風習が残っています。講座は、月日や星、雨風や草木など季のうつろい、自然のめぐりと心身のかかわりを、五感を通して味わう寒の養生。年末年始、時と事に追われて働きずくめの頭をやすめ、からだの声に耳を傾けるひとときです。一汁三菜、空と大地のおすましに寒の根菜の麹漬け。五穀玄米甘酒と、くりやの土鍋炊き七草粥。それぞれの滋味淡味を楽しみ、からだをいたわります。

羽田農園の三方原大根

「空と大地のおすまし」は、切り干し大根と切り干し人参を山の湧水で戻し、土鍋でゆっくり火を入れたお出汁。大根や人参の品種や干しの具合、香りや湯気、味を見ながら頃合いを定めます。火を入れ過ぎると苦みが出るのでほどほどに。竹ざるで濾し取り、ひと晩ねかせればできあがり。戻した大根と人参は、人肌に冷めてから、ホワイトバルサミコ酢や醤油麹、胡麻などを和えて常備菜としていただきます。

羽田農園の人参

遠州三方原は大根の産地、畑に張られた網の棚に、刻まれた大根が真っ白に輝いている風景があちらこちらで見られる。冬の澄んだ空気と強い日差し、乾燥した山おろし遠州のからっ風、朝夕の寒暖や空気の湿り具合のうつろい。呼吸をするようにゆっくり水分が抜けて甘みが増し数日で干しあがる。種を土に埋めてから干すまでの間に、空と大地の恵みが凝縮した切り干し大根。毎年、楽しみにしている羽田農園さんを訪ねると、この冬は大根の収量が少なく、切り干し大根は1回のみで終わったとのこと。そうならばと、久しぶりの切り干しづくり。大根と人参を刻んで干したところ、天地返しに手を入れる度に甘みを確かめ順調に減ってゆきました。夕暮れの時のしじまに、ポリポリ響く、一夜干し。

・表題写真
空と大地のおすまし:切り干し大根、切り干し人参(遠州三方原産、羽田農園)
器:黒田泰蔵

浜松の夕暮

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。