季節をいただく

無花果 映日果 イチジク

いちじく煮

熟れたイチジクを枝からもいで、その場で割いてかぶりつく。みずみずしさと濃厚な甘さが広がり、舌の脇までくすぐられる。頬が落ちそうになる瞬間は、暑さも気にならない。日差しが強い日が続き、いくつも熟れるが、その見極めは鳥たちがひと足早い。頃合いと思えば、すでに先客あり、もう穴があいている。その横でカブトムシは枝をかじり見向きもしない。鳥や虫たち、人までも養うイチジク。その白い滴が染みついた手で、枝葉に触れたとき、降り注ぐ光を浴びた葉から、大地に張り巡らされた根っこから、今、食べたイチジクに凝縮されて、からだの一部になっていることを感じた。
無花果 映日果 イチジク

桜が散る頃に、朝日を浴びたイチジクは産毛を光らせながら赤子の手のような葉を開きはじめていた。やがて梅雨を迎えて葉は生い茂り、暑い盛りには赤く甘い実りとなった。花が咲かないように見えるので「無花果イチジク」。旬を過ぎて名残りの今、頃合いのイチジクが十個ほど採れると、皮を薄くむいて、お鍋でコトコト。軽く火を通して、昆布だしに、白味噌、練りごまで和えていただいてもよし。今回は、トロトロになるまで煮詰めて、淡い甘さを楽しめるイチジク煮。もうひと鍋は、煮詰めたイチジクにブルーベリーを加え、形が崩れない程度に火を入れ、ブルーベリーとイチジク煮。火を止める前に摘果みかんを絞ると、それぞれの味が引き立ちます。採る度に瓶詰めになって冷蔵庫に並び、しばらく楽しみます。
無花果 映日果 イチジク

遠い西から、野生の菌で醸された食パンがやって来た。軽く炙って、冷やしたイチジク煮をのせ、自然栽培の摘果みかんの滴をほんの少し垂らす。浅炒りのブラジルの豆を挽き、山の湧き水を沸かして珈琲を淹れる。各地から多くの人の手を介して集った食材が、目の前にあることのありがたさ。いただきます。
無花果 映日果 イチジク

いちじく:遠州三方原、ブルーベリー:まさこオーガニック(遠州伊佐地)、摘果みかん:みたらいや(遠州三ヶ日)、食パン:タルマーリー(因州智頭)、珈琲豆(ブラジル):カフェシーン(遠州上島)
無花果 映日果 イチジク

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。