季節をいただく

柿紅葉

柿酢

日差しに輝き空を彩る柿紅葉。日ごとに強くなる乾いた風に、鮮やかな葉は、ひらり、はらりと土に還る。つるべ落としの陽に冬も間近、葉が落ちても残る柿の実は、森の灯火ともしびのよう。寄る先々にて、庭や畑で採れた、裏山にったとおすそ分けに預かる。多くも食べられないので、ひとつ、ふたつと頂くうちに、色も形も大きさも違う柿が籠に幾つも並ぶ。里山の近くに住まう豊かさは、大地の恵みが笑顔とともに行き交っている。

治郎柿

次郎柿

柿は、初秋から年末まで採れ、干し柿は春頃まで店頭に並ぶ。柑橘類に次いで長い間、手に入る身近な果物。幾多の種類があり多くは渋柿。市田、西条、蜂屋、紀ノ川などは、干柿、串柿や、熟柿じゅくし、さわし柿など産地独自の渋抜きで美味しくなって届けられる。甘柿は、富有、伊豆に、遠州名産の次郎柿。走りの頃は皮をむいて、そのまま食べる。種類によっては、お大根と合わせてなます、干し葡萄と蒸し煮など、いろいろ試して使うが頂く数が多く減らない。また、柿は甘い果物、食べ過ぎると身体が冷えるのでほどほどにする。へたを湿らせ冷蔵庫に保管する間も無く、熟れはじめると早い。

甘さを過ぎた柿が増えると、小さな菌たちのはたらき、発酵にまかせて柿酢になるのを待つ。
熟し過ぎた柿のヘタと汚れを落とし、柿の皮に生きている小さな菌たちの力を借りるので、洗わずに皮ごと使う。煮沸したガラス瓶に入れ、通気性のある紙で蓋をして、毎日、混ぜる。翌日には、プクプク泡が出て発酵がはじまり、条件が整っていたためか1週間ほどで細かい泡もおさまり酵母の白い膜に覆われた。柿を追加しながら2週間ほどで食べられるくらいに、酢酸菌が行き渡れば、濾し取って熟成させると、よりまろやかな柿酢になりそう。

各地から雪の便りが届き、根菜に甘みがのりはじめます。遠州では真っ白な蕪が食べ頃、柿酢にも合います。三方原の羽田農園の蕪を切り軽く塩をして、熟成途中の柿酢をそのまま和えて重しをかけると、翌日には、ほんのり淡い酸味と甘さの蕪の柿酢漬け。発酵のはたらき。空に、土に、からだに宿る小さな見えない菌たちのおかげさま。

蕪の柿酢漬け
陶:Ramo

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。