季節をいただく

鮎 あゆ 鮎滝

鮎滝

鮎滝。その名の通り、春から夏の終わりにかけて鮎が昇る滝。数年前からお蚕さんを訪ねて新城の出沢すざわに通い始め、その道すがらの寒狭川。名に釣られ涼を兼ねてのみちくさ。駐車場に車を停め、ひんやりとした沢に沿って森を抜けると岩場に出る。滝の上から見おろすと、数十の若鮎が一斉に飛び跳ね、魚体をくねらせながら力の限り滝を昇っている。その水面を飛び跳ねた鮎を、柄の長い網で待ち受ける笠網漁。たらいの中には数百の鮎。西瓜のような淡く甘い香りが漂っている。
鮎 あゆ 鮎滝

鮎は鰻と同じく海から川をのぼり、脂びれを持つ鮭や鱒の仲間。お盆も過ぎた時期は、放流された琵琶湖産の稚鮎ではなく、三河湾からの天然遡上。生まれた故郷、豊川、寒狭川に戻って来た若鮎とのこと。夏の終わり頃はハヤが混じることも多いが、今年は、まだ鮎が湧くように飛んでいると、網を持つ滝番の方と話している間に、若鮎が次々と笠網に飛び込んで来る。
鮎 あゆ 鮎滝

出沢の鮎漁は江戸時代から350年以上も続いている。この鮎滝は、上流からの木材を流すために播州高砂の石工を呼び寄せ、岩を切り崩した跡の流れ。以降、廃藩置県や漁協の設立など、時代により制度が変われど、地元の方々に守り継がれている伝統の漁。この出沢地区に住まう漁協の加入者のみ網を持つことができる。アユの友釣りや他の魚については、遊漁証(日券・年券)を購入すれば釣りはできるとのこと。地元に暮らし漁を継いでいる方々の自然を敬う姿に背筋が伸び、泳ぐ若鮎が愛らしく見えるようになった。
鮎 あゆ 鮎滝

帰り際に持たせて頂いた若鮎は甘露煮に。純米酒と丸大豆醤油をヒタヒタに入れ、たっぷりの青梅の蜂蜜漬け、生姜と山椒の葉を加えてコトコト煮込む。お酒のアルコール分を飛ばし、粘りが出て濃い香りになれば出来上がり。若鮎のほろ苦さに、ご飯がすすむ。次の春も、若鮎が無事にのぼって来る美しい清流でありますように。
鮎 あゆ 鮎滝

遊漁証取扱所 林 tel:0536-25-0620 新城市出沢前畑(国道R257 出沢前畑交差点前)

鮎:寒狭川 鮎滝(三州新城)、丸大豆醤油:栄醤油(遠州横須賀)、純米酒:松の司・楽 松瀬酒造(近江竜王)、生姜:井上農園(遠州磐田)、山椒:前嶋屋(遠州引佐)、青梅の蜂蜜漬:https://bionet.jp/season-recipe/ume/

鮎 あゆ 鮎滝

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。