季節をいただく

かぼちゃ甘酒と玄米餅

かぼちゃ甘酒と玄米餅つき

寒空のもと、木臼にから湯気が立ちのぼる餅つき。蒸し上がったばかりのもち米、スルガモチの玄米を冷めないように手早く杵で擂る。玄米は白米より強く、水に2日間つけて2時間以上蒸しても固く、ひたすら擂る。つき手が入れ替わり餅らしくなるにつれ周りに人が集って来た。かけ声が弾むとできあがり、おまちかねの朝ごはん。つきたての玄米餅を器にのせ周りに並ぶ好みのお店へ。くるみぜんざい、イタリア雑煮、金山寺味噌、揚げ餅など、それぞれの出店者の創意工夫で、行き交う人の話も弾み、楽しく美味しいひととき。毎年恒例の、蒲御厨かばのみくりやおかげ朝市のにぎわい。

焼餅

玄米餅:スルガモチ玄米(日月喜塾) 焼き網:辻和金網(京都)

朝市は、毎月第三日曜日に、遠江国とおとうみのくに蒲神明宮かばしんめいぐうの近くにて開かれている。蒲神明宮は、かつて伊勢御厨いせみくりやとして伊勢神宮のお台所にかかわる役どころ、食にゆかりが深く蒲御厨と呼ばれていた。有志が集い「かいものしながら青空ご飯」と、お米、お野菜、お結び、焼きもの、綿衣料などの出店があり、大地とお台所をつないでいる。

スルガモチ玄米

スルガモチ玄米(日月喜塾)

朝市に並ぶ自然栽培のお野菜の中に、愛嬌のある形の南瓜。その大きなえくぼに魅入って手が伸びた。皮が薄くて美味しい「清内路かぼちゃ」とのこと。数日前に南木曽から清内路峠を越えてきたばかり、峠は標高1200m近くあり吹雪く雪道、清内路は厳しい冬を迎えていた。高地の空気と水と土で育まれ、秋の初めに収穫、寝かせること数カ月で甘さがのって届けられた清内路かぼちゃ。

清内路南瓜

清内路かぼちゃ(南信州清内路産)

信州の伝統野菜とされ、種は代々、受け継がれている。皮が薄いため包丁も入りよい、さいの目に切り、皮も種も一緒に玄米麹と合わせて、かぼちゃ甘酒を仕込んだ。かぼちゃと麹は同量、水は倍量。かぼちゃを水に入れゆっくり火にかける、かぼちゃが踊りだせば火を止め、あとは余熱におまかせ。ひとかけら口に入れると、ほんのり淡い甘さで美味しい。種も歯を立てると中の実が出て、わずかにほろ苦い。60度以下になれば麹を入れ、50~55度程度で数時間からひと晩、甘くなれば、かぼちゃ甘酒の出来上がり。冷めれば冷蔵庫に、火止めしないので麹は生きており、翌日には深みのある甘さが引き立ち、日々、少しずつ味は変わる。甘みが濃く感じるなら、お湯やほうじ茶、豆乳などで少しのばす。さつま芋の甘酒の作り方も同じ、冬の甘味。南木曽の漆器によそい、焼いた玄米餅をお供にいただきます。

表題写真:かぼちゃ甘酒:清内路かぼちゃ(南信州産)、有機玄米麹(越前マルカワみそ) 漆器:木地屋やまと(信州南木曽)

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。