はじめてのこよみ暮らし
七十二候をはじめて過ごす「家族」の記録
海外のお土産について話す
次の七十二候は麋角解。シフゾウ(四不像)というシカの仲間の角が落ちることですが、浜松市から一番近いシフゾウに会うためには多摩動物公園に行かなければなりません。そういえば、シフゾウは海外の動物です。しほの提案により、海外からやってきたお土産を持ち寄って話すことになりました。
しほ 家のなかから、家族や知人友人がお土産として海外から持ってきたものを持ち寄ってきたけど。あまり外国のものはなかったね。
太郎 服や家具などだと中国製やベトナム製のものがあるんですけれど、税関を通さないでお土産として日本に持ちこまれたものだとこのくらいですね。
しほ なにその言い方、犯罪のにおいがするよ。
太郎はイラクと中華人民共和国の紙幣を持ち寄りました。
しほ 海外のお土産の企画でお金を持ってくるなんて太郎はおかしいや。
太郎 そうでもないんですよ。中国から平清盛が銅銭を輸入したことは歴史の教科書で習いますよね。国内でたくさん流通するようになった銅銭が、平安時代に貨幣不足のため停滞していた産業を活性させ職人による手工業を発達させました。鎌倉時代に定期市や職人による座ができたのは平清盛が銅銭を輸入したおかげなんです。なので、日本人にとってお金も立派な海外の製品なんです。
しほ へー、そうなんだ。このお金は誰からもらったの?
太郎 毛沢東の絵が描いてある1人民元は超短編作家からお年玉代わりにもらいました。サダム・フセインの25イラク・ディナール札は句会の先輩からクイズの賞品として貰いました。サダム・フサイン体制の崩壊でもうタダの紙キレになってしまいましたが。
しほ ちょっとまって。これって「20」じゃないの?
太郎 編集長がおっしゃっているのはイラクの紙幣の左下に書かれた「٢٥」のことですね。間違えやすいのですが「٥」はアラビア語の数字では「0」ではなく「5」なんです。
太郎が持ち寄ったものからしほが持ち寄ったものへ話題は移ります。
太郎 編集長が持ってきたエッフェル塔はパリ土産とわかりますが、この木の棒はなんですか?
しほ エッフェル塔は田辺市でものつくりをしているお母さんから貰ったパリ土産。そして木の棒は燃やすと香りを立てるもので滋賀県の友達からのアメリカ土産。
太郎 たしかに。微かに木の棒はバニラの香がしますね。それではこの革のお財布は?
しほ これはお父さんの海外土産。
太郎 どこの国ですか?
しほ 覚えてないなぁ。お父さんは昔なんども海外研修に行っていたから、お土産を買ってきてくれたの。
太郎 おや、裏にはアメリカ合衆国で作られた鹿革の財布と書かれています。
しほ すごい、七十二候の麋角解とつながった!
太郎 シフゾウの革ではないですけれど、鹿とシフゾウはイトコみたいなものですからね。
しほ 木のトレーは「“Families” on the move 移動する「家族」の暮らし方」の著者である大橋香奈さんからもらったものだよ。フィンランド製。
太郎 いっぱいカレーを食べられますね。
しほ ……果物とかを置いておく皿だと思う。
最後に残ったのは太郎が持ち寄った本。
しほ この本は英語の本?
太郎 英語の詩集にフランス語訳がついた本です。麋角解の俳句で引用した小津夜景さんはフランス在住の俳人さんなんですが、航空便で送ってきたんです。「表紙がカワイイから」という理由で。
しほ へー。表紙は誰なの?
太郎 アメリカの詩人ブローティガンです。これは見開きでブローティガンの英語の原詩とフランス語訳を読める詩集を読めるんですよ。フランスで出版されています。
しほ へー。
みなさんの家にも家族や知人友人からもらったお土産はありませんか? クリスマス・プレゼントにも飽きたころだと思います。海外のお土産がどうして今ここにあるのか、話し合うのも楽しいですよ。
鹿革の財布に冬の夜を隠す 林甲太郎