はじめてのこよみ暮らし

七十二候をはじめて過ごす「家族」の記録

花は葉に。季語「葉桜」

石燈籠の正体

太郎はしほを浜松に置いて、上司や先輩と一緒に鎌倉へ出張しました。車を運転し、江ノ島電鉄の小さな駅近くにある里山のふもとにたどり着きます。太郎がそこで見つけたものとは?

上司 着きました。太郎さん、ここですよ。
太郎 保育園の横ですか。厳重そうな門ですね!
先輩 では、門を開けますよ。(ぎぎぎぎ、門が開かれる音)
太郎 おおお! 一歩門のなかに入ると外とは別世界、まさに裏山、いや里山ですね!

鎌倉腰越の丘、里山のある町角

登った先には中庭があり、さまざまな花が咲き乱れ、まさに爛漫といった風情。太郎はしばらく下界としほのことを忘れました。

太郎 先輩、この赤い花は躑躅ですか?
先輩 それは木瓜ぼけですね。
太郎 なるほど! それにしてもここは椿も咲いているし、桜もあるし、土筆と杉菜も生えているし、鎌倉の昔ながらの植物がそっくりそのまま残されている感じがしますね。
先輩 でしょうね。
太郎 ここに住みたくなってきました。

太郎は庭の隅、江の島を望める杉林のなかで石燈籠を見つけます。

太郎 先輩、これ東叡山と書いてありますが、上野寛永寺にあったものですか?
先輩 よく分かりますね。だけど、なぜここにあるのか分からないんですよ。
太郎 そうなんですね。どうやら寛延四年に東叡山の有徳院に献上したものらしいですね。ここに寄進者らしき名前があります。(上野寛永寺は芝増上寺と並ぶ徳川将軍家の菩提寺、もしかして……)

石灯篭、東叡山有徳院尊前従五位下九鬼河内守藤原隆寛

先輩 そうなんです、藤原隆寛と書いてあるんですが、誰なのかは分からないんですよ。
太郎 たぶん藤原は姓でしょう。すると河内守の上が氏ですね。字が潰れていますが「九」は読めます。もしかすると「従五位下九鬼河内守藤原隆寛」かもしれません。ちょっとスマホで調べますね。
上司 (太郎さんは何しにここまで来たのだろう。不思議だ!)
太郎 出てきました。寄進者は九鬼隆寛、丹波国綾部に封じられた九鬼家の当主ですね。
先輩 京都の人かぁ。
太郎 有徳院についても調べたんですが、暴れん坊将軍こと徳川吉宗の戒名が「有徳院殿贈正一位大相国」です。だからこの石燈籠は九鬼家が徳川吉宗の墓前に寄進したものでしょう。
先輩 へぇぇ~。
太郎 明治維新後の九鬼家の別荘が鎌倉にありましたから、その縁でここまで流れてきたのかもしれませんね。
上司 なるほど、この石燈籠には鎌倉の愉快な歴史が秘められていそうですね。(太郎君、仕事しようぜ!)

あなたの近くに建つ石碑や石燈籠にはどんなことが書かれていますか?

花は葉に沖へ漕ぎ出る海人の舟 林甲太郎