季節をいただく

納豆に蕗の薹の醤油麹胡麻すり

納豆に蕗の薹

稲刈りが終わってしばらくたった頃、日月喜塾の畑を通りがかると大豆の収穫の真っ只中。あちらこちらで鞘が弾け、丸々とした大豆、玉錦の実が顔をだし笑っている。隣の小学校から帰る子どもたちが、数人ごとに賑やかに話しながら歩く姿と重なった。

大豆畑、小学校の下校

そんなのどかな午後に、突然、空から大きな音が降り注ぎ、子どもたちの声をかき消した。円盤を背負った飛行機は訓練中のようで何度も上空を通過している。空を見上げると雲行きも怪しく、夕方には雨になりそうな湿気。そのためか飛行機の音も近く聞こえる。

大豆「玉錦」

ひらいた鞘のひと粒と目が合う。黒土の上にも白い大豆が点々と、助けを待っているかのようで拾い始めた。畑に立つと土の感触が心地良く、そのまま収穫のお手伝いに、ひたすら抜いては束ね、軽トラの荷台に積み込んだ。陽が沈む頃には、ポツポツと雨も落ちてきた。

大豆「ふくゆたか」

しばらくして玉錦より少し小粒の大豆、ふくゆたかを分けて頂いた。大豆は手間ひまかけても、ひと株あたりたなごころに足りほどの量しかない。一粒一粒がとても大切に思え、節分も豆をまく気分にならない。そうなら鬼も福も糸引き合って仲良くなる納豆。ふくゆたかを山の湧水につけること二晩。真っ白に膨らんで倍くらいの大きさになる。

土鍋 陶紡 土の子

使い慣れた薄手の土鍋で、甘い匂いが立ちのぼり、指で軽く押し潰せるくらいになるまでコトコト煮る。濃厚な茹で汁の甘いこと美味しいこと。竹ざるで湯切りし浅めのガラス容器に移して、煮沸した稲穂や藁を添える。イセヒカリの稲穂と藁は大豆と同じ自然栽培。藁に住む元気な納豆菌は煮沸しても活動し大豆を納豆に変える。藁の量を増やすと納豆の風味は強くなり長持ち。藁を添えなくても淡い風味の納豆になります。

納豆菌

湯たんぽなどで温めながら二晩ほどで納豆に、白い衣をまとった出来たてはとても可愛い。冷えた場所や冷蔵庫などでひと晩ねかせると食べ頃。元の大豆の倍以上の量となり日持ちもするので、一週間の常備食。

納豆菌

蕗の薹がでたとの風の便りに探し回り、生のまま刻んで醤油麹と白ごまと共にすり鉢であたる。大地の苦味は春の便り、納豆に添えていただきます。

蕗の薹、醤油麹、白胡麻

ふくゆたか、稲穂・藁(イセヒカリ)、納豆菌:日月喜塾(遠州浜北産)
蕗の薹:(遠州浜松産)、醤油麹:玄米麹(丸瀬家、伯州米子)、栄醤油(遠州横須賀)、白胡麻(みたけ食品)、器:辻村塊(奈良)
土鍋:陶紡 土の子(豊橋)

「陶と織 冬のイイことさがし」 陶紡 土の子、織工房 るーむ
2018/2/9(金)‐15(木) ギャラリーまるまるわ(浜松)
http://www.marumaruwa.com/

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。